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後宴 朧月夜の退出 なるべく挿絵付き『花宴』③100


・ 後宴

桜花の宴の翌日には後宴があって、源氏は一日忙しくしていました。
筝を勤めます。

箏の琴 仕うまつりたまふ

昨日の宴の時よりも魅力的な興趣深い演奏となりました。

・ 藤壺中宮のお召し

藤壺中宮は暁の頃に清涼殿上御局に参上します。

藤壺は 暁に参う上りたまひにけり


・ 朧月夜を想う

源氏は「有明に別れた人は、もう内裏を出たのだろうか(かの有明 出でやしぬらむ)」と、そちらの人に思いを馳せます。

その人の動静を、万事に遺漏のない良清と惟光に見張らせていました。
源氏が御前から退出すると二人がすぐに参ります。

思ひ至らぬ隈なき 良清 惟光 をつけて うかがはせたまひければ 御前より まかでたまひけるほどに

「たった今、桜花の宴の御見物においでのお妃方の里方の皆様が、北の陣に控えておりました御車で出て行かれました」
「右大臣家の四位の少将右中弁が急ぎ出て送って行かれたのは、弘徽殿の御実家の御車かと思われます」
「明らかに女房共の乗る車ではございません御車が三台ございました」

けしうは あらぬ けはひども しるくて 車三つばかり はべりつ

それを聞いて源氏は胸が轟きます。
「どうしたらどの君とわかろうか」
「ふらふらしているうちに右大臣に知られて大袈裟に婿扱いされるのは困る」「どんな人かよく見定めたわけでもないうちに正式な結婚で縛り付けられるのは厄介なことだ」
「かと言って、このままあの人と進展しないのも誠に残念である」
「どうしたものか」
と思い煩って、ぼんやり物思いに耽ります。

いかにせましと 思しわづらひて つくづくと ながめ臥したまへり


・ 紫を思う

それからふと、「紫の姫君はどんなに寂しがっていることだろう」「何日も帰れないでいるからさぞ塞ぎ込んでいることだろう」と、二条院の姫君のことを愛おしく思い遣ります。

姫君 いかにつれづれならむ  日ごろになれば 屈してやあらむと  らうたく思しやる


・ 取り交わした扇

有明の人と取り交わした目印の扇は、桜襲の色の濃い方に霞んだ月を描いて水に映る月影も加えたありふれた図柄ではありますが、貴女が使い慣らした気配のゆかしいものでした。

かのしるしの扇は 桜襲ねにて 濃きかたにかすめる月を描きて 水にうつしたる心ばへ 目馴れたれど


「草の原を尋ね探してはくださらないでしょう」と詠んだ様子が脳裏を去りません。

草の原をばと 言ひしさまのみ 心にかかりたまへば

📖 世に知らぬ 心地こそすれ 有明の 月のゆくへを 空にまがへて
  (こんな気持ちになったのは初めてだ。有明の月の行方を見失ってしまった)

と、桜襲の扇に書き付けておきました。

📌 後宴(ごえん)

大きな宴のあと、場所や日を改めて、さらに催される宴。

📌 かの有明 出でやしぬらむ

出づ は 有明 の縁語。

📌 源良清

『若紫の巻』で、北山の岩窟の聖に参った時に、山上で、播磨守入道の娘の豪奢なかしずきぶりを揶揄していた、当代の播磨守の息子がこの良清です。
後に明石の姫君として登場する人に野心を抱いていると、仲間に噂されていました。

📖 海龍王の后になるべき いつき女ななり 心高さ苦しや とて笑ふ
かく言ふは 播磨守の子の 蔵人より 今年 かうぶり得たるなりけり

📌 北の陣

朔平門にあった 兵衛府の詰所。

北の陣(朔平門)の位置


眞斗通つぐ美

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