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52 なるべく挿絵付き 若紫の巻⑪ 北山への求婚
・ 北山への文
葵上と共寝した翌日、源氏は早速北山の尼君と僧都にも文を遣ります。
尼君には、『まともに聞いていただけない御様子でしたので気後れしてしまい、思うことを満足には申せませんでした』『改めてこのように申し上げますことで、私のひとかたならぬ熱意をおわかりいただけましたら嬉しうございます』など正式な立て文に書きました。
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その中に、若紫に当てた小さな結び文を入れてあります。
『あなたの山桜のように美しい面影が私の身を離れません。私の心は全てそちらに置いて来たのですが、夜の間に桜を散らすような風でも吹かぬかと気がかりです。(📖 面影は 身をも離れず 山桜 心の限り とめて来しかど 夜の間の風も うしろめたくなむ)』
そう書いてある筆跡の見事さはもちろんのこと、さり気ない文の包み方までも、草庵の年経た人たちには眩く素晴らしく見えました。
「まあ、困ったこと」「何てお返事差し上げたらよいのでしょう」と尼君はただ当惑するばかりです。
・ 尼君からの返信
「あの折の御申し出は成り行きの御座興と存じておりました」「わざわざこのようにおっしゃっていただきましても何と申し上げたらよいものか」
「まだ続け字の難波津の手習い歌さえ書けない子供でございますから、どうしようもございませんのです」
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加えて、源氏の文の『夜の間の風』を受けて、
夜風に散ってしまうような儚い桜の山風に散るまでのほんの束の間に御心をお留めになられたと伺っても、心もとなくて心配するばかりでございます。(📖 嵐吹く 尾の上の桜散らぬ間を 心とめけるほどの はかなさ)
・ 惟光を差し向ける
僧都の返事も同じようでしたので、何とかしなくてはと、2、3日してから惟光を差し向けました。
源氏は、「少納言の乳母という人が世話係だから、その人を訪ねて詳しく相談せよ」と命じます。
惟光は、『相変わらず殿は守備範囲が広いというか何というか、変わった御趣味だなあ』『姫と言ったって随分子供っぽいように見えたけどなあ』とはっきり見えたわけでもないあの隙見の日のことを思い出しておかしくなります。
わざわざの文に僧都は恐縮しています。
惟光は命じられた通り、少納言の乳母に正式に会って、源氏の考え、普段の様子などを話しました。
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惟光は弁の立つ人なので、いかに似合いの良い縁談であるか縷々言葉を尽くすのですが、「こんな御無理なお申し出では御真意も何もわかりません」と、北山の人たちは皆々、ただ途方に暮れるばかりです。
惟光に持たせた文にもまた求婚の志のことが丁寧に書かれていました。
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今度も中に入れた結び文の方には、尼君からの『続け字の難波津の手習い歌』を受けての同じくポピュラーな『浅香山の手習い歌』にかけて、
「続け字と言わず、一字ずつの放ち書きから是非拝見したいのです」
「浅香山の山の井のような浅い思いではないのに、どうして私から離れていらっしゃるのでしょう」「浅い心ではないのですよ」
(📖 あさか山 浅くも 人を思はぬに など山の井の かけ離るらむ)
などと書いてあります。
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・ 尼君からの返信と惟光の報告
それに対して、尼君からのお返事は、浅香山の手習い歌にかけて、
うっかり契りを結んで後悔したと聞く浅香山の山の井のような浅い御心のままでは、孫娘を差し上げるわけにはまいりません(📖 汲み初めて くやしと聞きし 山の井の 浅きながらや 影を見すべき)
惟光も同じようなことを少納言の乳母からの伝言で報告します。
『尼君の御病気が回復なされば京のお屋敷にお帰りになりますから、その時に改めてお返事申し上げます』というのです。
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源氏はじれったくてたまりません。
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眞斗通つぐ美