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14 なんちゃって図像学 夕顔の巻(2)
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2 紙燭で夕顔の扇を見る
涙ながらに懐かしい乳母を見舞ってしみじみと時を過ごし、更に修法など重ねて命じました。
そして出る時に、惟光に紙燭を持ってこさせて、先程の夕顔の花を載せた扇を見ます。
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こよりの先に油を染ませたものも紙燭というとも。
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🌷🌷🌷『紙燭で夕顔の扇を見る』の場の 目印 の 札 を並べてみた ▼
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使い慣らして薫物もよく染んだ扇に、遊び書きのような筆跡も美しく書いてあります。
「白露のきらめく夕顔の花は あなたのように見えますわ」
🖊 心あてにそれかとぞ見る 白露の光そへたる夕顔の花
㊙ 頭中将が迎えに来てくれるのを皆が一日千秋の思いで待ち焦がれている。ちょっと身分の高そうな男の車が通る度に皆で期待してしまう。「頭中将様、あなた… なのね!」
女房がずらりと並んで簾越しに背伸びするように往来をずっと覗いていたのは頭中将が通るのを見逃さないための日々の重要な仕事だった。
さて、思いがけず品のいい筆跡や風流な扇の演出に興味を惹かれて、源氏は「隣にどんな人が住んでいるか聞いたことはあるの?」と尋ねます。
惟光は、こんな時にまた例のお癖?と思って不機嫌ですが、この家の者に聞いてきます。
「地方に下っている分限者の派手好きな若い妻が残っていて、宮仕えしている姉妹も出入りしているとか何とか。詳しいことは下人にはわからないようです」
では自分を見知った宮仕えが馴れ馴れしく言ってきたのか、身の程知らずだな、と思いつつ、名指しで来たのは悪い気もしなくて、筆跡を変えて、
「 近寄ってはっきりご覧になったら?」
🖊 寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる花の夕顔
と先程の随身を遣わします。
まさかのお返事に「どうしましょう!」と大騒ぎしている襤褸屋の下々が分不相応だと不快に思いながら随身は帰ります。
📌 随身… 随身とは、近衛府のいわば公務員で、近衛府の大将~少将、兵衛府、衛門府の督、佐等の警護をするそうです。警護対象と親密になり易く家人化していったそうです。
惟光は源氏の腹心の乳兄弟ですから、随身が近しいとしても、遊戯めいた夕顔の扇を手渡すのは惟光の方がよりふさわしかったのでしょうね。
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・六条御息所の邸に出発
源氏は目立たぬようにして乳母の家を出て、六条御息所の邸に向かいます。
御息所の邸は隅から隅まで細やかに心が尽くされています。
難しい人を振り向かせるのに夢中な源氏は、 完璧な風流の前には五条の桧垣の家の女のちょっとした風流なんか思い出しもしません。
翌朝は少し寝過ごして明るくなり始めてしまいました。
皆の賞賛も尤もだと思われる美しい姿が朝の光に浮かび上がります。
帰りに五条の家の前を通ります。
それ以来行き来の度に目が留まるようになりました。
・隣家についての惟光の情報
幾日かして惟光が来ました。
「五月頃から来ている人がいるらしいのですが、家の者も一部の者しか事情を知らされていなくて、誰もその人を見たこともないそうです」「母の家から垣根越しに隣の方を覗いてみると、女たちが褶だつものを形ばかり着けているので主人がいると知れます」
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「昨日は夕日が差し込んで見通せたので、文を書いている女主人の顔がよく覗けました」「物思いの様子で、傍らの女房達も忍び泣いているのがよく見えました」
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「試しに文をやってみますと、書き慣れた様子の素早い代筆らしい返信がありましたので、悪くない若女房などもいるようです」
源氏は更なる探索を命じます。
人が目もくれないようなあんな家に思いの外いい女がいれば嬉しかろうなと源氏は思います。
眞斗通つぐ美
📌 まとめ
・紙燭で夕顔の扇を見る
https://x.com/Tokonatsu54/status/1711187557063758055?s=20