[創作]か細く生きる花
僕は彼女と恋に落ちた。
彼女との出会いは大学の構内で、授業が被ったことによるものだった。
彼女は黙々とノートを取っていて、僕の大学では(というよりどこの大学でもだとは思うが)そんなすべての文字を書き取るような人は滅多にいなかったので、半ば僕は感心していた。
そのノートは色彩に富んでおり、綺麗な図解と、それでいて膨大な量の書き留めがあった。
それを見た時、「これが女の子なのか」と僕は思った。
そしてこれが最も驚くことなのだが、それでいて彼女は基本的に「腰が低かった」。
基本的に彼女は控えめで、自己主張をしなかった。「私なんて」というのが、その雰囲気が、それは嫌味の要素を全く感じさせない、非常に望ましく飾り付けされた謙虚さと優しさとなってオーラに滲み出ていた。
僕は彼女と付き合って間もない頃、彼女に諸々のうつを経験してきたことを話した。
その日は花火が夜空に咲き誇る日であった。彼女は僕に向けて言った。
「そんな優しいあなたを知れて嬉しい。」
火花は轟いた。僕はその時、彼女を目的としてその大学に来たことを、その縁を熟するために諸々の苦難を生き抜いてきたことを知った。
何気ない日に香るその彼女の匂いと、その陽だまりに佇む静かな空気とが、僕を包み込んでいた。
彼女は今日もノートを取る。
誰にも見つけられなくても、誰にも知られなくても、誰にも評価されなくても。
僕はその彼女の隣で、そっと自分のペンをしまった。