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[創作]影響

かつて大学からの旧友だった社会人2人が再会した。

「よう、久しぶり。」

「久しぶり、元気してたか?」

「ぼちぼちやってるぜ。そっちはどうよ。」

「もうブログが軌道に乗りまくり。エンジョイ〜」

「ほう、いいな。うまくいってるんだな。」

「時代に恵まれたよ。そっちは公務員、どうよ。」

「今はまだ事務作業だから、そんなに困ることなくやってるよ。」

「ほう、でも事務も最初はむずかったんじゃないか?」

「研修があるから、俺はなんとか。研修なかったバイトに比べたら全然勝ち。」

「なるほど。安定してるようで。」

「まあ、そこそこだな。」

「いきなりだけど彼女さんはどうなった?」

「ああ彼女ね、別れたよ。」

「やっぱ別れたのか。気分とかは大丈夫なのか?」

「まあお互い話し合って納得できてたから、多少のロスはあったけど、そこまで引きずってはないな。」

「そうか。新たな一歩だな。」

「まあ、一歩かどうかは分かんねえけど笑」

「一歩でいいだろう笑 自由の身だ。」

「自由かー。どちらかと言えば拘束感の方が大きいけどな。」

「まあ国の仕事ならそんなもんだろ笑」

「まあ..笑 そっちはどうなの?」

「俺は今も続いてるよ。この前一緒に映画見に行ってきた。」

「続いてるのか、まあお前のことだから熱烈ぞっこんLOVEは変わってねえんだろうとは思ったけど。」

「当たり。愛の中に俺は住んでいる。」

「その時々人を食ったような詩人になるのやめねえか?」

「おっとそれを指摘されたら俺の仕事がなくなっちまうぜ。」

「もう一度下積みして初心に帰ったらどうだ。」

「こう見えても自分は何も変わっていなく、変わっていくのはいつも周りだけだ。」

「変わってく周りも、変わらねえお前を取り扱いづらいんだろう。」

「そんな、信じていたのに。」

「周りがお前を信じれねえんだよ。」

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その友人との飲みが終わったあと、同棲している彼女のもとへブログの彼は帰宅した。

「ただいま。」

「おかえり、友達さんはどうだった?」

「変わりなかったよ。仕事もぼちぼちらしく、うまくやってるみたいだ。」

「そっかそれはよかった。彼女さんの話、はどうだったの?聞いても大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ。別れたって。もともと価値観が合わなくなってきたみたいなことを言ってたから、お互いそれは分かってるとこがあったから納得はできたと。」

「そうなんだ。心配してたもんね。」

「ちょっとね。そもそもあいつの家庭のこととかを考えると彼女を愛せない気持ちも分かる気がして。でも、それを素直に話せるあいつはすごいよ。」

「新たな一歩、になるといいね。」

「そうだね。また飲もうぜって話したから、これから話は聞けると思う。ところで、今日は何を見ていたの?」

「ああ、私は〇〇がお勧めしてくれた『闇夜に花束』のアニメを見ていたよ。」

「ああ、これ切ないんだよね笑」

「泣いた笑」

「主人公がもともと荒くれてるとこから、結局懺悔の物語なんだよね。」

「うん、なんか私としてはもとのオラオラ系で行ってほしかったんだけど、シーンを経るごとに重くなっていくの切なかった笑」

「もう狙ってきてるからね笑」

「少しは手加減してほしいな。」

「それを言わせるのはアニメの勝ちだよ笑」

「涙腺がもたない笑」

「今日は疲れたから早めに寝るかな。明日は編集の方との打ち合わせもあるし。」

「分かった。私早めに出るから、その時に起こすよ。」

「ありがとう。」

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編集部の女性社員とブログの男は話す。

「今回のテーマは『失われていく恋』なのですが、〇〇さん書くことできますか?」

「はい、先日友人と話す機会がありまして、全然ただ飲んだだけなんですけれど、その友人が失恋したんです。」

「そうだったんですね。何か思われるとこはありましたか?」

「友人が言うには"熱が出ない"とのことだったんです。どうも目の前の相手に、その人に、熱が出ない。心の底から愛と言えるものが湧くのを感じない。どこかで自分で自分をせせら笑うような自分がいて、それが自分を絶対的に素直にさせない、って。」

「なるほど、それを落とし込んでみたいと?」

「ええ。僕が思うにそれは『彼の足りない部分』だと思うんです。それはもちろん努力が足りないとかいう話ではなくて、これまでの生き様で充足感や満足感というものに欠ける心理的な状態があったことです。」

「なるほど、それは多少の機能不全、ということですね?」

「はい、分野や状況は違えど、人はそれぞれ機能不全を抱えて生きている。そういう歪みは誰でも持っているものだと思います。そういうものが時として現象面に現れるのが、色々な人が持つ種々様々な苦悩ではないか、と思うんです。」

「失恋も、その一つであると。」

「はい。失恋というものは自分という個人をまざまざと見せつけられる出来事だと思うんです。だから私はそのような失恋から芽生える一つの情緒、日常に見出す平安のようなものをゴールにして書いてみたい。」

「なるほど、失恋という個人を通しての、人生の意味合い。あるいは尊厳。」

「失うことは"失っていること"から出てくるものだと思うんです。だからその喪失体験を通して芽生える個人の物語というものに焦点を当てたい。」

「なるほど、いいですね。」

「少し挑戦にはなりますが、面白いものにはなる気がしています。」

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その後彼が出版した『失くなった。Re:見つけた。』という本はベストセラーとなった。

その本を手にし、読んだ中学生の男女2人が本について話している。

「ねえこれすごいよくなかった?」

「ああ、分かる。なんかめっちゃ切ない感じだった。」

「なんか、なんかすごいよね!」

男の子は答える。

「そう、なんかすごい。もっと言葉にしたいんだけど、どう言葉にしたらいいのか。」

「2人が恋に落ちて、でもそれが錯覚、というのも違って、2人は本当にお互いを愛そうとするんだけど、どこかですれ違っちゃうんだよねえ。」

「そう。愛してないわけではない。でも"愛せてない"。この絶妙な感じ、ほんと先生すごいよ。」

「よく書けるよねぇ。」

「今度サイン会があるみたいなんだけど、よかったら一緒に行かない?」

「ええ!いいの!行きたい!!」

「なんか、そもそもとして書いてる人の雰囲気がどんな人なのかも気になるんだ笑」

「えー私もめっちゃ気になるー。」

「まじこの街に生まれてよかった。」

「それな。じゃあまたあとでLINEして〜。」

「おけ。」

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