今度、貴方に出会うのは… 2014文字#シロクマ文芸部
『閏年』と言われる月の年に、貴方と出会った。
後に、女王となる、貴方に……
◈◈◈◈
「……ですから、嫌です。お断りします」
「何故なのっ!?私がこんなに頼んでいるというのに!」
「頼んでいるってわかっているなら、何でそんな偉そうなんです」
「……え、偉そうって何よっ!!」
彼女との出会いは最悪だった。
いきなり話しかけて来たかと思ったら、「どこでもいいから連れて行ってほしい。ここからなるべく遠くに行きたい」
と言われ、自分は王女だと言ってきた。
それなりに礼は弾むと言われても、最初の第一声で面倒くさいことだと理解した俺は、この願いを断ることに今は集中していた。
……けれど、彼女は折れなかった。
「お願い!!少しで良いのっ。遠くへ連れて行って」
突拍子もない彼女の願い。
自分は王女だという嘘か本当か分からない立場。
……それでも、段々と、彼女の必死な眼差しに自分は屈っしていき、結局、俺は自分の車に彼女を乗せ、少し距離のある海辺へ彼女を連れて行ったのだ。
◈◈◈◈
『うわ〜、すご〜いっ!!』
彼女は海に着くとすぐに砂浜に向かってかけだしていった。
ここに着くまでに彼女から聞いた話は、俺には現実には思えない話しばかりだった。
『朝から寝るまで人が周りに居て一人になれない』
『パーティーや舞踏会があれば参加する人の顔と名前を全て覚え、笑いたくもないのに笑顔をつくって挨拶をする』
『一人になれない。行動するにも一々人に伝えなければならない』
『自分の好きな事が何もできない』
『……恵まれているって分かっているけれど、自分に女王は荷が重いとおもっていること』
……しがないこの国の一般市民の俺は、ただただ彼女の話を聞くしか出来なかった。
けれど、その全てを話す彼女の顔が、悲しそうな顔に見えたから、今この時だけでも心から笑ってくれないだろうかと、俺は思った。
「何してるのっ!早くこちらに来て!とっても気持ちいいわよっ!」
「……楽しいですか?」
「んふふ。楽しいに決まってるじゃない!狭くて…でも無駄に広い王宮よりずっと楽しくて、ここは広いわっ!!」
彼女は靴を脱いで裸足になり、打ち寄せる波を見ながら跳ねるように遊んでいる。
その姿はとても無邪気で、可愛らしかった。
……ずっと、見つめていたいと思った。
◈◈◈
「……そろそろ帰りましょう。もし、貴方が本当に王女様なら、今頃騒ぎが凄いですよ」
「……そうね……帰らないとね……」
彼女からは、さっきまでの無邪気の笑顔は影を落とし、何処か寂しそうだった。
「……ねえ、」
「……はい。」
「……貴方の名前、教えて…」
「……サラン……と、いいます」
「……サランね……。」
そういうと、彼女は静かに俺の近くへ歩み寄ってきて俺の頬にキスをした。
「……お礼……。今日は、本当にありがとう、サラン……」
◈◈◈
彼女を送り届けたら、案の定、俺はこっぴどく王室の方達に叱られた。
……本当に彼女は王女様だったんだと、叱られながら考えていた。
その数日後に彼女から手紙が届いて、叱られた事に対する謝罪と、あの日の事の感謝が綴られていた。
彼女との繋がりは、ここで途切れた……
◈◈◈
俺は年をとった。
結婚もした、子供もできた、孫もできた。
そんな孫に呼ばれて、孫の元へ向かおうと椅子から立ったとき、それまで鮮明だった目の前が、一気に暗くなった…………
_________…………
「もう、いつまで寝てるの?早く起きなさいよっ!」
若い頃に聞いた、初恋の人の声がした。
夢現、幻の様に。
「ねえ、早く起きなさいっ!」
………どうやら、夢ではないようだ。
「………何ですか。相変わらずうるさいですね。」
俺も、しわくちゃの顔から、若かったあの頃の姿に戻っている。
「うるさいとはなによっ!」
「………はは、……すみません」
どうやら、俺はあの世へと来たようだ。
彼女が居て、自分も若い姿に戻っているのだから、ここは、空の上だ。
彼女は女王となってすぐに、不慮の事故で旅立った。
人は案外しぶといものだと思っていたけれど、そんな事はないんだと、この時、絶望にも似た気持ちを抱いた事を覚えている。
そんな彼女が、今、ここにいる。
女王でもなく、王女でもなく、一人の女性として…人として……。
「………あの」
「なあに?」
「……名前、教えてくれませんか?」
「……?そんなの知ってるでしょ?散々新聞とかで見て知ったでしょ?」
「……貴方の口から、直接聞きたいんです……教えて下さい……」
そういうと、彼女は少し恥ずかしそうに、照れくさそうに口を開いた。
『私の名前は、ファランよ………』
「ファラン……ファラン………」
ファランからの手紙には、あの日の感謝と、謝罪と、実は、もう一つ書いてあった。
それは……………
『今度、天国で貴方に出会えたら、私とずっと一緒にいてくれる……?』
何度も書いては消して、書いては消してを繰り返した跡が紙に残っていたのを思い出す。
「ファラン……」
「……何よ……」
「あの手紙の、返事を言うよ……」
fin.