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ウエンとサエン 1797文字【うたすと2 Simply】
『おはよう』
二人の朝は、同時に挨拶をする所から始まる。もう長い月日一緒に暮らしていれば、こうして以心伝心するかの様に挨拶を交わす事は、二人にとって普通の事だ。
「……なあ〜、どうしてもやんなきゃ駄目?」
短い髪で白髪の『ウエン』が尋ねる。
「駄目だろうね。神様から必ずするようにって言われてしまっているし」
優しい穏やかな口調でなだめるのが長髪で、こちらも白髪の『サエン』
二人は寝床から起きると向かい合い、顔を近付けて口付けをした。
「〜〜〜〜〜っ!無理っ!何年経っても慣れないっ!」
「今日も元気な様だね。ウエン」
この口付けは、二人の健康管理みたいなモノで、神様から言いつけられた習慣でもある。
普段は仲の良い二人だが、長い月日一緒に居れば、たまには喧嘩したりする。
けれど、喧嘩をしている最中でお互いに口をききたくなどなくても、毎日の口付けは必ずしなければならない為、二人の喧嘩は長続きをしないのだ。
「さあ、ウエン。朝食の準備をしよう」
「はぁ〜、わかったよ」
二人は、もう何年も生きている。
それこそ、人間の寿命など有に超えている。
二人は『ウエン』と『サエン』という名前であるが双子ではない。
けれど、二人がまだ『人』だった頃、二人は唯一無二の親友で二人の暮らしている町の人々も二人の仲の良さを微笑ましく見ていた。
二人の暮らしていた土地は、神様との距離が近い土地でもあった。
毎年神様の為に祈りを捧げ、神様が降臨してくれば人々は崇めた。
……けれど、そんな穏やかだった町は、神様の依代である一本の木が倒されてから暗転し始める。
依代である木が倒された事に人々は恐れ慄いた。
そして、誰が倒したのかという犯人探しが始まり、町中が疑心暗鬼に苛まれた。
そこで、人柱の様に矢面に立たされたのがサエンだった。
サエンは町の皆から好かれていたが、そんなサエンを疎ましく思う輩も少なからず居た。この期がやって来るのを待っていたかのように、サエンは直ぐに捕らえられ幽閉されたのだ。
「サエンッ!サエンッ!」
ウエンはサエンが捕まった聞き、直ぐに幽閉されている場所へと向かった。
サエンは厳しい取り調べをされた様で、捕まって一日も経っていないのにサエンの洋服や体はボロボロだった。
「……来るなウエン。
君まで、疑われてしまう」
「そんなのどうだっていいっ!だって、サエンはしてないじゃないかっ!
なのに……っ、何で捕まって……こんな、こんな姿に……っ」
「ウエン。これも、俺の運命だ。
俺はこの運命を受け入れる」
「馬鹿言うなっ!……だったら!俺だってサエンと一緒に罰を受ける!
サエンを一人なんかしないっ!」
「………ウエン………」
その時だ。
固く閉ざされている天井を光輝く光が照らし、一人の神が姿を現した。
「か、神様…………っ」
ウエンが神様の前にひざまずく。
「神様っ!サエンは無実ですっ!依代である木を倒してなどいませんっ!
どうか、どうかお許しをっ!
もし、もしお許しを頂けないのなら、私も、このウエンにも罰をお与え下さいつ!!」
「……っ!!
…神様……っ、違います……。」
サエンはボロボロになってしまった体を力の限り動かしてウエンの隣に座り、神に言う。
「ウエンは、ウエンは私とは何も関係ありません………っ。
罰なら、私にだけお与え下さい…っ」
「サエンッ!」
『二人共、口を閉じよ』
神が、静かに二人を諌める。
『私も、サエン。お主がしたとは思ってはいない。
それに、私が罰を与えずとも依代を倒した報いは、ちゃんと受けるであろう』
「神様…………」「…………っ」
『ウエン。サエン。お前達二人がお互いを思いやる姿に、私は心動かされた。
どうだろう。人間の姿を捨て、私の臣下とならないか?
私の目となって、人の世を見て欲しいのだ』
顔を見合わせた二人の答えは、直ぐに決まった。
✵✵✵
「う〜〜ん。うまそーだな〜」
「うまそうじゃなくて、美味しいよ」
二人は神の臣下になった。
その証の入れ墨が、ウエンは右に。サエンは左に入っている。そして、茶色だった二人の髪も白髪になった。
二人は、二人で人の世を見ている。
時には厄災を退けたりもしている。
けれど、神は万能ではない。
間に合わずに歯がゆい思いを何度もした。
それでも、二人は二人で生きていく。
「う〜〜〜んっ!旨いよサエン!」
「あはは、良かった」
ウエンとサエン。
二人は、神様の目のかわり。
二人で、手を取り生きていく。
二人で、永久を生きていく。
〜END〜
こちらの企画に参加させて頂きました!
挑戦してみました。
長くなってしまいましたが、
よろしくお願いします。