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帰りたい場所… 1859文字#青ブラ文学部
「河瀬さん、今日飲みにいきませんか?」
………また来た。
冷たくて冷酷かもしれないけれど、私は声をかけられて直ぐにそう思った。
「今日は、両親と晩御飯を食べる約束をしているんです。」
何となく浮かんだ理由を伝える。勿論、絶対に信じてもらえないというのも分かって言っている。
けれど、心の中では思ってる。
この理由を聞いて、納得して欲しいって…。
「そうなんですか?……じゃあ、仕方ないですね」
私を誘ってきたのは、風の噂で私の事を好んでいるらしいという後輩男性社員だった。
こうやって誘われたのも、1度や2度じゃない。……正直、彼の完全なる一方通行の片思いだ。
私はどんなに誘われても、いい所を仮に見せられても絶対に彼にはなびかないと断言できる。
もしこの噂が本当で、本当に私に片思いをしているのなら、早く告白するか、諦めるかをして欲しい。何て自意識過剰なんだろうと自分でも思うけれど、こうやって曖昧なまま何度も何度も食事に誘われるのは本当の所、面倒なのだ。
「来栖(くるす)」
私の背後から、後輩男性を呼んだ声がした。
「河瀬さんには、お付き合いしている人が居るんだ。それなのに、そうやって誘ったら、河瀬さんだって困るだろ…?」
……少し低くて、でも丸い声の彼。
「……えっ!?そうだったんですか?!………っちぇ、何だ…」
「コラッ、ちぇ、何ていうんじゃない」
「!!!っはい、すみません!!」
後輩男性社員こと、来栖君はこの後ヘコヘコしながら「すみませんでした!」と謝罪をし、あっさりと私から引き下がった。
何とも拍子抜け……………、いや何てサッパリした人なのだろう。
私が思っているより淡白な彼だった。
「河瀬さん」
私は名前を呼ばれて少しビクッとなってしまった。
「ふふっ、そんな驚かなくても」
「……だって、少し考え事していた時に名前呼ばれたから……」
「まあ、それを分かって、今呼んでみたからね、思った通りの反応が帰ってきて可愛かったよ」
「……またそうやってからかう!」
「からかってなんかない……」
そういうと、来栖君に私を諦めさせた彼こと、同期であり、私のお付き合いしている相手。彼氏の星原 聖歩(ほしはら せいほ)は人通りのない会社の通路の端に私をそっと追いやって言った。
「………可愛い姿を見たかったんだ…」
そう爽やかに言い放った彼は、今夜は家でご飯食べない?一緒に作ろう。とスマートに私との約束を取り付けその場から去っていった。
「………いつもそうやって……」
私は内心悔しいと思いながらも、彼のことが大好きな事を再認識させられる。
「……惚れてるな〜、私……」
そんなこんなで夜となり、彼の家へと急ぐ。彼の方が先に退勤した為、私は足早に帰り道を進んでいく。
彼の家のインターホンを鳴らすと、直ぐに彼が扉を開けた。
「……お帰り。お疲れ様」
彼からの私への一言目は、いつもの事ながらキュンっとしてしまう。
そして、思わず彼に抱きつきたくなる。
トン……………………ッ。
「…どうしたの?今日は何時もより疲れたの?」
彼が優しい声で聞いてくる。
「……違うの。来栖君に誘われてた時にね毎回考えてた事があったの……」
「…えっ?そんなに何度も来栖から誘われてたの……?」
「うん……1度や2度じゃないよ…」
「クッ、…、…あの野郎〜」
「もう来栖君は諦めてくれたんだから、怒らないでね」
「…勿論。怒ったりなんかしないよ。……それで、何を考えての?」
「聖歩の事……考えてた」
「うん?」
「ああやって来栖君に誘われ続けて、仮に私が折れて1回食事に行ったとしても、私がその帰り道1番に帰りたいって思うのは、聖歩の所なの……」
「私が…いつも1番に帰りたい場所は、聖歩の所なの」
我ながら、何と素直で恥ずかしい事を言ってるんだろうと思ったが、その後彼がギュッと抱きしめてきたから、あ、ちゃんと伝わったっぽい。と思いながら私は彼とキスをした。
「…今日、肉じゃが?」
「うん。そう(笑)驚かそうと思って、先に作ってみたんだけど…、」
「ふ〜ん。……味は、まあ、美味しいんじゃない?かな」
そう言った私を、彼はニマーとした顔で見つめてくる。
「………?何?」
「キスで味見って、何か変態っぽい?」
「……何でよっ!!!な、何だか急に恥ずかしくなってきたじゃないっ!!」
私が帰る場所。
帰りたい場所。
どうか………
どうか、末永く続いていますように。
〜終〜
こちらの企画に参加させて頂きました。
山根あきらさん
最近、恋愛のお話ばかり書いてしまっている自分が居ますが、恋愛のお話を書きたいと思わせて貰える素敵なお題をありがとうございました。