夜明けの色と香り #色のある風景
三羽烏さんの企画に参加させて頂きます
🌒🌔🌗
「はあ……疲れた…」
ズボンのポケットから電子煙草を取り出し口へと運ぶ。
息を吸うと電子煙草の味がして、少し不味いな〜なんて思いながら、深い紺色をした夜空に、夜空の紺色と電子煙草の白い息が混ざり合って灰色の煙に変わる。
俺は、都会の街の端っこで『深夜の喫茶店』を営業している。
営業時間は夜の8時から翌日の朝4時まで
祖母の家にあった沢山の本を譲り受け、どうしようかと迷っていた時に考えついたお店だった。
ほんのお試し営業のつもりだったけれどネットの口コミで密かに広がり、今では店をやっていける程の売上をあげている。
祖母の遺品の本が沢山並んだ本棚。
使い古された茶色い椅子と机。
音は静かに流れて時計の音が響く。
店内には珈琲の匂いが覆っていて、そんな中、密かに本の印刷の匂いがする。
そんな店内では、始発を待つ会社員や、夜のお仕事の休憩に立ち寄る人など多種多様だ。
けれど、乱暴な事は起きないし、皆静かに読書をしている。
俺の格好もとってもラフで、それが良いと言ってもらえる事も増えた。
俺の性には、合っている。
「こんばんは…………、いや、もう…おはよう、よね?」
喫茶店を閉店して、近くの公園で休んでいた所に、香代子さんがやって来た。
香代子さんは、俺の喫茶店の常連さんで夜のお仕事をしているお母さん達の為の深夜の託児所を運営している。
「お疲れ様です。休憩ですか?」
「ううん。今日はもうこれでおしまい」
「………ふ〜、そうですか」
俺は吸っていた電子煙草を口から離し、乱雑にポケットへと入れた。
「………今日は……?これから予定とかあるの?」
「……ないっすよ。帰って寝るだけです」
「……そう……なんだ……」
あ、これは……
「香代子さん、もしかして、俺の淹れた珈琲…飲みたいんですか?」
「……っ、そうよ。だって今月の私の勤務時間じゃ、喫茶店に行けないんだもの……」
香代子さんの、素直で、可愛い所。
夜明けに照らされた香代子さんの肌は、夜明けの色に反射して透き通った色の肌に見え、ほのかに甘い香りがした。
「行きましょうか」
「……えっ?」
「喫茶店。珈琲入れます」
「はあ……っ!!本当に!!」
「はい。豆はありますから」
俺と香代子さんは、お互いが通ってきた道を戻り、喫茶店へと向かう。
二人だけの、静かな時間を過ごしに。
〜終〜
三羽烏さん。
素敵な企画をありがとうございました。
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