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恋猫マダム 1110文字 #シロクマ文芸部

恋猫と呼ばれています。

……なんの事?と、お思いになるでしょうね。

けれど「恋猫」と呼ばれている私も、なんの事だが良くわかってはおりませんでした。

同じ家に住む弟猫が教えてくれたのですが、どうやら人間達の間では、私が暮らしている家から外を眺めている姿を見ると、恋が成就する。

なんて噂がたっているらしいのです。

これを聞いた時、私はとても困りました。

私は、人間で言うなら「おばあちゃん」です。猫生でも長生きな生活を送ってきました。

元々は子猫で捨てられていた私を、ここの家のご家族の方が助けてくれたのです。

私は、ここの家の家族の方が大好きです。誰よりも、何よりも。

けれど、そんな噂がたってしまっては、知らない人間の方々が、私が出てきてくれないかどうか見に来るでしょう。

そうすると、ここの家のご家族に迷惑がかかってしまいます。

私も、毎日毎日、窓の側に居ても良いのですが、なにぶん窓で日向ぼっこをするよりも、私専用のふかふかな布団の上で寝ている方が、至福に感じるお年頃。

そう毎日毎日、窓の所へはいけません。

そんな私の気持ちが、噂を呼んでしまったのでしょうか?

私はただ、窓で日向ぼっこをしていただけなのに…。

◈◈◈
「ねえ、お母さん!知ってる?」

「うん?なにを?」

「海が、恋猫って言われてることっ!」

「あ〜何か、中学のママさん達から聞いたかな?………本当なの?」

「私もよく知らないけど、本当みたい」

「あらあら、」

「どうするの?あんまり人が集まったりしたら大変だよ?」

「…そうね。お父さんにも知らせておきましょうね」


私、お母様と中学1年生の奏との会話、ちゃんと聞いていました。

やっぱり、困らせてしまうのでしょうか?

「でも、素敵ね〜」

「えっ?」

お母様が、私専用のふかふかのベッドで寝ている私の元へやって来ます。

「海を見られると恋が叶う。なんて…


すっっごっくロマンチック!!」

そう言うと、私を優しく撫でてくれました。
思わぬ反応に、私はびっくりです。

「あはは、確かに」

そう言うと、奏も私の側へ来て、優しく私を撫でてくれました。

私は、本当になんて恵まれているのでしょう。

「にゃ〜〜〜おん」

(ありがとう。ありがとう。
お母様。奏。)


それからというもの、思っていた様な混乱はありませんでした。

普段通りの暮らし。

普段通りの日々です。

でも、私がたまに窓の側に居ると、はしゃいで嬉しそうにしてくれる人間達は居ます。

私を見て喜んでくれるなら、それはそれで、私にとっても幸せな事。

恋猫と呼ばれているからには、それなりに恋を叶えてあげたいものですね。

けれど、私はもう、おばあちゃんです。

だから、本当はこう呼んで欲しいと、ひっそり思っています。


『恋猫マダム』と。


〜おわり〜

こちらの企画に参加させて頂きました。

ありがとうございました。

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