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あっという間に散り去った(エッセイ)

買い物に行く為に自転車を漕いでいるとフワッと香ってくる金木犀の香り。

「あ〜もうそんな季節か〜」

なんて思いながら、金木犀の木が植わっている家の前を通り過ぎる。

少し登っている様に思えるその道は、自転車で買い物に行くたびにゼーハーゼーハーしてしまったりする場所なのだが、金木犀がほのかに香る今の時期だけは、そんなゼーハーが収まって、優しくて、落ち着く香りに癒やされる。

そんな買い物の静かな楽しみは、いつの間にか足早に去っていってしまった月日の様に、終わりをむかえしまった。

買い物へ行く為、いつもの金木犀の香る道を通る。けれど、もうそこを通っても金木犀のいい香りが漂って来る事はなかった。

地面には、咲いて散った金木犀の花びらがオレンジ色の絨毯の様に落ちて纏まっている。

「……終わっちゃったのか……」

いい匂い。秋の香り。

そんな風に思っていた金木犀は、あっという間に散り去ってしまった。

匂いの断片を感じる事も出来なかった。

私の、ささやかだった癒やしの場所。

もう、お別れしなければならないなんて……。

シャンプーやボディーソープ、柔軟材など、沢山の金木犀の香りという商品が、昨今並び始めている。

金木犀の香りは、近年どうやらブームらしい。

けれど、どんな香りも、やっぱり本物には敵わないな〜と思う。

本物だからこそ感じる癒やしの香りがある様な気がする。


金木犀と再開するのは、また一年後。

あっという間の月日かもしれない。

それでも、あっという間に散り去ったしまった金木犀に、少し物悲しさを感じながら、私は買い物に行く。


物悲しさも、すぐに収まる。

普段の道に、戻るだけなのだから。


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