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右近と左近。 1589文字(シロクマ文芸部)

「書く時間になったぞ。左近(さこん)」
「ん。今いくよ右近(うこん)」
彼らは双子の兄弟、右近と左近。彼らの生業は、大分特殊なもの。こちらの双子、右近と左近には特別な力がある。
それは生まれた時から備わっていた力。けれどこの時代、双子は忌み子。二人の両親は、二人を守りながら暮らしていたが両親は流行病で二人がまだ幼い頃に亡くなってしまった。
両親の代わりに二人を育ててくれたのが、今も二人が暮らしている、小高い森に建つ小さい漆黒の寺の和尚「白蘭(はくらん)」。年齢は今年で50歳の白蘭は、目が不自由で盲目だ。そんな白蘭が周りが忌み嫌っていた忌み子の二人を引き取り、ここまで育てあげたのだ。そして、白蘭は生まれながらに持っていた二人の力を直ぐに感じ取り、二人に包み隠さず話しその力の使い方を説き伏せた。
二人は戸惑うことなく納得し今現在も修行を続けている。
「白蘭和尚、今から行ってきます」
「直ぐに戻ってきますから」
喋る順番は右近、左近の順。双子だけあって二人とも声もそっくり。そんな二人の声も白蘭は聞き分ける事が出来るが、二人は必ず決まった順番で喋る様にしている。
「分かった。気をつけて行ってくるんだよ。お前達の力は特別で、でも危険も伴うものなのだから」
『はい。わかっています。いってきます』
二人は白蘭に挨拶をすると漆黒の寺から外へと行き、スタスタと森の中を進んでいく。暫く進んでいくと、広い開けた所へと出ることが出来る。けれど、この場所は右近、そして左近しか訪れることのできない神秘で秘密の場所だ。此処に来た二人には、これからすることがある。
二人にしかできない事だ。
「……それじゃあ、始めるか、左近」
「うん。始めよう、右近」
そういうと二人は一本の筆を取り出し左右から不思議な文字を円状に書いていく。筆には墨汁の炭を一切付けていないのに二人が筆を走らせると黒い文字が浮かび上がってくる。
「……今回は少し厄介なものだから、念入りに書くぞ。いつものやつじゃ、多分間に合わない」
「大丈夫。ちゃんとわかってるよ」
今も昔も変わらず、天災、厄災、色々な災いが起こる。人はそれを止めることは出来ないし、ただ静まるのを待つだけになっている。けれど、この二人は違う。全てを退ける事はまだ出来ないが、二人の書いている円状の文字は、天災、厄災、全ての災いである脅威を、ある程度払い除ける力を持っていた。
天災や厄災などが起こる前兆になると、二人は同時に夢を見る。その夢を見るたびに二人は此処に足を運び、払い除ける陣を書いているのだ。

「もう少しで書けるぞ、そっちは?」
「こっちも、あと少し」
二人は生まれながらに自分達が持っている力を認識していた。それこそ、白蘭が説き伏せる前からこの力のことを知っていた。けれど、白蘭の教えで二人の生業は、はっきりと浮かび上がり、全うする事を自分達で決めたのだ。

双子だから忌み子。
そんな風に決めつけ、毛嫌いをしていた人も居る中、二人は自分達の住む場所を守るためこうして陣を書いている。

「…ふー。これだけ書けば、大丈夫だろ、な、左近」
「うん。きっと大丈夫だよ」
「これで、きっと守れる」
「うん。きっと守れる」
『俺たちが好きなこの場所をきっと守れる』
そう言うと、二人は腰を伸ばした。
「さあ、白蘭和尚の所に帰ろう」
「白蘭和尚、心配してるかな?」
「ふはっ、相変わらず隠れてソワソワしてんじゃねーの?」
「ははは、だったら早く戻らなくちゃ」

双子の兄弟、右近と左近。
周りに忌み子と言われながらも此処に暮らす人と場所を愛している。
例え、誰から感謝をされることがなくても全然平気。
父と母、白蘭和尚が褒めてくれればそれだけで満足。

けれど、いつしか訪れる。
名もなき彼らは伝説になる。
伝説となって、神様になる。

そんな二人の双子。右近と左近。

彼らは愛す。貴方が今いるこの場所を。
彼らは救う。貴方が今いるこの場所を。

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