巡り合わせ 2535文字#シロクマ文芸部
想定していた文字数を超えてしまいました。
長文になっているので、もしよろしければ、お時間が出来た時に読んで頂けたら幸いです。
◈◈◈
金色に輝いていたであろう古い一輪挿しは、暫く開かずの間だった蔵の中で眠ったまま、美しかった金色は鈍色の色へと変わってしまった。
「……どうしたら良いんだ…」
俺は本庄 優真(ほんじょう ゆうま)大学1年生。
地元の大学に進学し、今日は休みを使って、母に出来る時に手伝って欲しいと言われていた3年前に亡くなった祖父の家の蔵の整理を1人でしていた。
そこで見つけたのが、この、元は金色であったであろう一輪挿しだった。
蔵の中は、母や親戚がちょくちょく来ては片付けをしている為スッキリはしてきているが、まだ物は多い。
そんな中、俺はこの一輪挿しが目に入ったのだ。
「……これ……何だが気になる」
俺は取り敢えずこの一輪挿しを他の物とは別に避け、片付けを続けていった。
片付けは、ほぼ半日費やした為、蔵の中は前よりスッキリしたとは思う。
家に帰ると、蔵から持って帰ってきた一輪挿しを母に見せてみた。
「…どうしたのこれ?」
「……気になったから持って帰ってきた。知らない?この一輪挿しの事」
「知らないわよ、蔵に入った事なんて、今までなかったんだから」
母に聞いても、特に進展はしなかった。
◈◈◈
次の日。
俺は大学1限目の授業の課題をする為、早めに講義室へ向かい、課題をしていた時の事だった。
「なあ、本庄」
声をかけてきたのは、同じ講義を受ける友人「富樫 敬斗(とがし けいと)」だった。
「おはよう。富樫」
富樫は話かけてきた後、開口一番聞いてきた。
「本庄、お前さ…何か、金色の何か…手元に持ってる?」
「……えっ?
昨日、じいちゃんの家の蔵から、金色だったであろう一輪挿しを……持って帰ってきたけど…………も」
「……そっか」
「それがどうした?……ってか、何で分かった?」
「わかったから。それだけ」
そういうと富樫は、今度俺の家に行っても良いかと聞いてきて、明後日、俺の家に来る事になった。
「これだよ。一輪挿し」
「見てもいい?」
「うん。いくらでもどうぞ」
富樫は、約束した通り家にやって来て、俺の部屋へと入ると一輪挿しを手に持ち、じーっと見つめ始めた。
富樫には「霊感」というものがあると、本人から聞いた。
元々富樫の父方の家系は、霊感が強い人が多く、必ず次世代へと受け継がれるらしい。
この一輪挿しの事も、夢をみたそうだ。
「…………なあ、本庄」
「うん?」
「温かいお湯、準備できるか?この一輪挿しがすっぽり入りそうな大きさの桶とかの中に。
まずは、この一輪挿しの鈍色を取り除いてあげないと」
そう言われた俺は、お風呂から風呂桶の中に温かいお湯を入れて2階へと運び、その後また頼まれた中性洗剤を持ってきた。
富樫は、お湯の中へと一輪挿しを20分位つけ、その後に優しく中性洗剤で一輪挿しを洗っていく。
富樫の慣れた手付きに、俺は目を奪われた。
そして暫く、落としては擦る。落としては擦るを繰り返していくと、みるみる鈍色だった一輪挿しは、金色へと変わっていった。
「うん。こんなもんかな?」
富樫はそういうと、自分のハンカチで優しく一輪挿しを拭き、またじーっと見つめる。
「…この一輪挿しは、本庄のひいお婆ささんが持ってたものなんだな」
「えっ?そうなの…!」
「けれど、ひいお婆さんが亡くなってから今まで、ずっと蔵に置かれたままになっていたらしい」
富樫はスルスルと話していく。
そんな富樫の姿を、俺は怖いなんて思う事はなく、ただ、ただ凄いと思っていた。
「この一輪挿しは、ひいお婆さんにとても大切にされていて、自分がこの人を守ろう。守りたいって思ってたみたいだ。
けれど、ひいお婆さんが亡くなると、自分は蔵に置かれしまい、どうする事も出来なかった。けど、いつかまた自分を見つけてくれる人が来る。
そう信じていたみたいだ」
「……えっ!?それが……俺ってこと?」
「うん。そうらしい。
本庄とこの一輪挿しは、相性がいいんだ」
「物と?相性なんてあるのか?」
「…あるよ。物にだって相性はある。
相性が良ければ長持ちもするし、この一輪挿しの様に意思を持つ事もある。
でも、逆もしかりで、相性が悪ければ、早く壊れてしまって、使い物にならなくなってしまう事だってある」
「……それじゃあ、俺がこの一輪挿しを持って帰ってきたのも、相性が良かったから……ってこと?」
「そうだな。まだ物はある蔵の中で、この一輪挿しが目に入ったんだろ?
これは、巡り合わせだな」
……何だがくすぐったい。
たまたまだと思っていた事が、ちゃんと理由があったなんて。
「この一輪挿しを大切にすれば、一輪挿しが本庄を守ってくれる。
そして、本庄が本庄の生を全うした時、この一輪挿しは砕けて役目を終える」
「………えっ?」
「それが、この一輪挿しの役目で、一生になった。
ま、信じるか信じないかは、本庄次第だけど」
そう言い終わると、富樫は一輪挿しを俺へと渡してくれた。
鈍色だった一輪挿しは、キラキラと金色に輝いている。
それが、まるで一輪挿しが喜んでるみたいだと、俺は思った。
「……なんの花……生けたら良いかな?」
「なんでもいいよ。例えば道端に咲いている雑草でも良い。
それだけで、一輪挿しは嬉しくて幸せで、力が蓄えられる」
「……富樫……お前…凄いな……」
「凄くなんかないさ。
俺にたまたま遺伝した能力みたいなモノが、本庄に良い事をもたらせただけさ」
「そうかもしれないけど……。
でも、ありがとな。本庄」
俺がそうお礼を言うと、本庄は少し驚いた顔を一瞬見せた後、すぐ優しい笑顔になって「どういたしまして」と言ってきた。
富樫が帰った後、俺は取り敢えず道端に咲いていた何処からか種が飛んできて、ここに芽吹いたであろうコスモスを一輪採ってきて、一輪挿しに生けてみた。
花を生けた一輪挿しは、何処か嬉しそうに見える。
「蔵で見つけたのも、何かの運命。
繫がり。相性。
俺は、これから大切にするから。
だから、これからよろしく」
そう、一輪挿しに話しかけると、生けたコスモスが、開けてある窓から入ってきた風で揺れた。
それがまるで「こちらこそ」と、言っているようだった。
〜終〜
こちらの企画に参加させて頂きました。
ありがとうございました。
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