一陣の風、声なき涙1027文字 青ブラ文学部
一陣の風のように、やるせなさは襲ってくる……。
合戦で傷付き、この合戦場で人生を終えた、名もなき人々の墓標の傍で……。
◈◈◈
ザラッ、カシャン、ザラッ、ザラッ、
服も顔も汚れきってボロボロな姿になった。切られた所から流れた血も、返り血も、血というもの全てがない混ぜになっている。
合戦が終わり、静かになったこの場所で、俺は自らの手を使い、ここで命を終えた人の墓標を作っている。
「……春政(はるまさ)集められるだけ集めて来た」
「……ありがとう。そこに纏めて置いておいて…」
今、ここから旅立った人達の装備を集め持ってきたのは、秋(しゅう)という同じ場所で戦ってきた戦友だ。
俺が戦に出たのは、これが始めてではない。はじめの頃は戦に出て鍛えた武芸を使い、成果を上げ、褒美を貰い、家族を楽させたいという思惑があっての事だった。
けれど、俺がした想像以上に戦は過酷で何処までも残酷だった…。
俺は命を永らえたけれど、俺の足元には昨日まで…さっきまで話をしていた人達の亡骸が倒れていた。
俺は一人で、それこそ死物狂いで亡骸を埋葬した。手が傷付こうが、体が悲鳴をあげようか構わず、ただ…ひたすらに土を掴んでは掘って、掴んでは掘ってを繰り返した。
その代償として、俺の指は削れ、本来の長さよりは短くなっているし、爪も削れて小さくなった。
それでも、マシなのだ。
此処に眠ることになった人達に比べればーーーーーーーーー………
◈◈◈
「春政……、一通り集め終わったみたいだ」
「…そうか。秋は休め。疲れたろ…」
俺がそう言ったものの、秋は休むことはせず、俺の隣に座り、一緒に土を掘り始める。
「……あの遺品……、また、一つずつ遺族に返しに行くのか?」
「ああ、行くよ。残酷な戦の中で、自分の装備に、自分の住んでいる場所を書き記すことを決まりにしたことは、唯一の功績だからな……だから……、ちゃんと帰るべき場所にかえさないと……」
「…………そうだな……」
俺達が、何時から埋葬を始めたのか、もうわからない。掘っては埋め、掘っては埋めを繰り返してきたが、終わりはまだ見えない。
賢明に、それこそ無心に掘っていても、何処か気が抜けてしまえば、なんの感情にも変えられない涙と嗚咽が溢れそうになってくる。
カシャ、カシャ、カシャ、
俺と秋が土を掘る音だけが、合戦場でこだまする。
俺と秋は戦の功績を称えられる様だが、まだ戻ることは出来ない。
此処で眠る事になった
名もなき者達への
弔いの為に……。
こちらの企画に参加させて頂きました!
山根あきらさん、ありがとうございました。