手放した恋心(セピア色の桜) 1307文字#青ブラ文学部
桜を撮った写真を現像して、何年も部屋に飾っておいていた。
そしたら太陽の光で写真は日焼けをし、綺麗で鮮やかなピンク色をしていた桜の写真は、『セピア色の桜』になった。
私は、その写真を飾ってあった写真立てを手に取り、スーッと表面を撫でる。
「………もう、そんなに経ったの……」
私が手に持っている写真立ての中のセピア色の桜には、ある人が写っている。
私の初恋で、初めての失恋した人。
この写真も、私が我が儘を言って無理矢理撮ってたもので、何処となく写真に映っている人の表情は少しぎこちない。
けれど、そのぎこちなさがその人らしくて私はこの写真が好きだった。
「和雅(かずまさ)君、君は今、穏やかで幸せ?」
🌸🌸🌸
高校三年生の頃、同級生だった彼に、私が我が儘を言って桜を一緒に見に行った。
彼には、今時珍しい許嫁という人が居て、将来の結婚が約束されている人でもあった。
「和雅君は、許嫁の人に会ったことあるの?」
「あるよ、……でも、何ていうか、心が、弾まなかったかな〜、って……
あははは、緊張してたのかもね、その時は…」
「……そっか。……でも、緊張してたらそうなるよっ!」
そう言った私だけれど、彼の言葉は、まるで自分で自分におまじないをかけて、言い聞かせている様に見えた。
「あのさっ!和雅君は、今までに好きだな〜って思う人は居たの?」
「えっ!?
好きだな〜って思った人っ?
……………、……う〜〜ん。」
そう言うと、彼は考え込んでしまった。
でも、答えを考えながらも彼は私と目を合わせてくる。
私はドキッとした。
だって、私は彼のことが好きだったから。
ありったけの勇気を振り絞って、私は今彼と此処に居る。
大好きな彼を、片思いの人を、私は、今だけは独占しているのだ。
「べっ、別に考え込むくらいなら、言わなくて良いよっ!ほら、先に進もう!」
「……俺は、今、してるかな……」
「……えっ?」
「ふっ………。ううん、なんでもない」
そんな彼との、最初で最後の二人きりのお出かけは過ぎていった。
おねだりをして桜と一緒に写った彼との写真は、この時の私の何よりの宝物になっていった。
けれど、これっきり。
私達は友達のまま高校を卒業。
それ以来、もう会っていない。
🌸🌸🌸
「……手放したのよね、私は、」
そう、私は諦めたんじゃない。
彼への恋心を手放したのだ。
終わりも見えていたし、傷付き、傷付ける事も何となくわかってしまったから。
「さてと…、この写真、どうしようかな」
恋心を手放しても、この写真だけは手放せないでいる。
あの時の思い出を、いつまでも思って、懐かしんでいたかったのだ。
私は、セピア色になった桜と彼の写真をクローゼットに入っている高校の卒業アルバムの中に挟み込む。
その当時使っていたカメラは壊れ、もう彼の写真はこれしかない。
セピア色になっても、手放しても、この写真とさよならをする事は、今はまだ出来ない私。
アルバムをクローゼットの中に戻すと、優しく私はクローゼットの扉を閉める。
もう少し、もう少しだけと…
自分で自分を慰めるように……。
〜終〜
こちらの企画に参加させて頂きました。
山根あきらさん
素敵で、でも何処か物悲しいような、懐かしい様な言葉のお題、ありがとうございました。