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内なる声に従って1718文字#青ブラ文学部

「……疲れた………」

一日中パソコンと向き合う事は辛い。
年々辛くなってきている。
もう、これは仕方ないと諦めながら帰宅する毎日。

でも、肩こりも重くなってきたし、寒くなってきたからか、腰も少し違和感を感じる様になった。
週に2日はジムに行ってても追いつかないくらい、体はまた凝り固まってしまっている。

「はぁ〜、あちこち嫌だな〜……」

そんな帰り道、フッと目に入った看板。そこには『90分 11000円』と書かれている。どうやらリラクゼーションのお店の様だ。

私は、最近まで電車の中で読み進めていた女性のコラムニストさんが書いた、マッサージやリラクゼーションなどの体験を書いたエッセイ本を読んでいた。

そこに書いてあったエッセイを読んで、私もいつか行ってみたい!と思っていたのだ。

「でも……お値段がな〜」

諭吉さんならぬ、今は渋沢さんがポンッ!とあっという間に1枚飛んでいってしまう値段。

そして、そのお金をマッサージに使うなら、自分の好きな事へ費やしたい!なんて気持ちが見え隠れしてくる。

「でも…今、本当に体がカチコチだからな〜」

体の内なる声に従って耳を傾けるなら、マッサージをして貰った方が良いのだ。

これは、贅沢な事かもしれないが体の欲している事を普段は無視してしまっている私。

この日くらい、体の欲している事を叶えても良いのではないだろうか。

「よしっ!入ろう!!」

私は、リラクゼーションのお店の扉を開けた。

「いらっしゃいませ」

そこには、30代くらいの一人の女性の方が居て、髪はお団子にしてあり、清潔感が溢れている。

「あの、いきなりでも大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。どうぞこちらへ」

温かい雰囲気の個室に案内され、女性の方に言われた通りに私は身支度を整えると、女性が入ってきて「何処か、特におつらい場所はありますか?」と聞かれたので、私は「肩が辛いです」と答えた。

すると、女性は力強く、けれど痛みは程よく程度で、温かい手を使いながら私の体をほぐしていく。

肩に留まらず、首、背中、腰、足と、どんどん私の体はほぐされていく。

き、気持ちがいい〜。
カチコチだったものが、ほぐれているのがわかる気がする。

私は、マッサージを受けながら女性こと『柔原(やわはら)』さんに色々な質問をされた。
会話の中で私の癖を知り、症状に合わせた施術を施す為に必要な事なのだそうだ。



「終わりのお時間です」

優しくかけられた声、私は目を覚ました。どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

ベットから体を起こすと、驚くほどに体が軽く、柔軟になっているのが分かった。

「えっ?全然違う………

体……軽い………」

私のその言葉を聞いて、片付けをしていた柔原さんが、静かに笑いながらこう言った。

「そう思って頂けたなら、良かったです」

私は、帰り支度を整えながら柔原さんに質問をしてみた。

「男性と女性だったら、やっぱり女性のお客さんの方が多いですか?」

「そうですね。殆どが女性のお客様です。色々な我慢や悩みを、ここでは素直にお話して下さる方が沢山いらっしゃいます」

「柔原さんは、そういうお話を聞くの、大変じゃないんですか?」

「……いいえ。大変ではありませんよ。それに、ここへ来て頂いた時くらいは、我が儘になって頂きたいと思っていますし、本来の自分を取り戻すお手伝いをしたいと思っています」

そんな柔原さんの話を聞きながら、私はお会計を済ませた。

「いきなりだったのに、ありがとうございました」

「いいえ。またいつでもお越しください。」

来る前と後で変化した体の軽さを感じながら、私は家へと帰宅する。

日が暮れかけている空を見ながら、私は、柔原さんが最後に言った言葉を思い出した。

「女性を癒やすのは、女性です」

その言葉には、柔原さんの謙虚さと、力強さが滲み出ていた様に思う。

「一万円以上のモノを受け取ったな〜」

私はきっと、近いうちまた柔原さんのお店へ行くだろう。
それだけ柔原さんの技術は確かで、人柄も素敵な人だった。

「よ〜しっ!今日は少し高い乳白色の入浴剤をお風呂にい〜れよ」

疲れてカチコチだった体が、柔らかくほぐれている。
こんな心地よさを感じるのは、いつぶりの事だろう。

〜終わり〜


※ジェーン・スーさん作
「揉まれて、ゆるんで、癒やされて」を参考に書きました。



こちらの企画に参加させて頂きました。

山根あきらさん
誰かにしてもらうマッサージ。
きっと心地が良いんだろうなと思いながら書きました。

よろしくお願いします(^^)


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