またねの代わりに【夏の残り火】
「うわっ、つめてっ!!」
「ちょっと、水飛沫が飛んでるっ!!」
「あははっ!良いじゃん!気持ちいいっしょ?」
私と彼は、夜の海に来ている。
夏も終わりに近付いているせいか、気温は夜になると涼しくなる様になってきた。
彼は、私の大学の頃の同級生。
名前は『佐原 直光(さはら なおみつ)』私は『柴原 雫(しはら しずく)』同級生という共通点だけだったが、段々と仲良くなっていき、お互いを名前で呼び合う仲になった。
「雫、こっちおいでよ」
「嫌だ。足が濡れる」
「濡れても良いじゃん。どうせ俺が車で送るんだし」
そう言うと、彼は私に近づいて靴と靴下を脱がせ、ゆっくり私の右手を取ると、私を波打ち際まで連れて行った。
ピチャン、パチャン………
「どう?冷たくて気持ち良くない?」
「……うん………冷たくて気持ちいい」
夏が終われば、彼はここから離れる。
そんな遠い訳ではないけれど、もうこんな風に気軽に会える距離ではなくなってしまうのだ。
「……やっと……異動願いが通ったんだもんね」
「うん?何?」
「……何でもない」
右手は、繋がれたまま。
互いの温もりが溶けていく。
「…………なあ、雫」
「……なに?」
「雫は、遠距離恋愛を1度失敗してるから……遠距離は嫌なんだよな……」
ドキッ…………と、私の心臓が胸を打つ。
「だけど……俺………雫が好きだ」
「…………すげー好きだ
……大学生の頃から…………っずっと……」
……私は、会社に入社してすぐに付き合った年上の彼氏が居た。けれど、彼が転職し遠距離になると、あっという間に音信不通になり、別れる事になったのだ。
「……大学生の頃って…………、私………」
回り道をしてしまった。……けれど、今は、直光と同じ気持ちだ。
「……直光……」
「うん?」
「ありがとう……。ごめんね………」
「……えっ?」
「……私も……直光が好き」
線香花火の様に弾けた思い。
『またね』の代わりに『好き』をのせて
私は、直光をそっと見つめた。
〜終〜
こちらの企画に参加させて頂きました。
藤家 秋さん
素敵なコラボ企画をありがとうございます。
企画に合っているか不安ですし、矛盾があったりするかもしれませんが💦よろしくお願いします(^^)