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江國香織さんの言葉の中で生きたい

僕には大好きでやまない作家さんがいる。江國香織さんだ。

彼女の作品に登場する人物たちはみなありのままであり、美しく、魅力的で健康的だ。健康的、この言葉はお気に入りのフレーズであり、よく本の中に登場する。この言葉にかけられた登場人物たちはみんなまっすぐに生きている。
だからこそ、彼ら、彼女たちは手に届かないような、どこか知っているはずなのに知らない感情を教えてくれる。その感情にあふれた言葉は知っている単語であるはずなのに、ひとかたまりであればわかるのに、日本語のつなぎあわせで新しくも懐かしい気持ちを引き起こす。
もう魔法でしかない。と、思うわけです。

はじめての江國さんの本との出会いは驚くことに父の本棚でした。本棚といっても家族みんなの正方形で9つの上下に開閉する扉のついた収納ボックス。
本棚には家族がこれまでに読んできた本がジャンル分けされて入っている。漫画、子供時代の絵本。母の旅行本、父のバイク専門誌。一番下の左端のボックスには、父がこれまでに読んできた本があった。
実際、この中にある本を結構読んだ。星新一や怪人二十面相、読みやすい本が多かったと思う。その中に1冊「すいかのにおい」があった。

この時からタイトルの柔らかさにひかれて手に取ったんだと思う。すいかのにおい。正直すいか自体のにおいは思いつかなかった。でもすいかのにおいは夏の様々な記憶を呼び起こしてくれる。小学生のころから大学生のころまで場面はすべて違うのに共通して感じるなつかしさ。これをタイトルだけで伝えるすごさ。

「すいかのにおい」はばらばらの少女たちが出てくる短編集であり、タイトルにもなった話は間違いなくホラーだと思う。でも決して長くない切り取られた一瞬は、はかなくきれいである。江國さんが選ぶ言葉で彼女たちが見える世界は誰も踏み込めないものになるのに、それはなぜか読者である自分に寄り添っている。自分にとっての夏を思い出す引き金のようになるのだ。

江國さんの言葉の中で生きる登場人物たちになりたいと読むたびに思う、実はそれはあの言葉の魔法にかけられたら私も同じような世界が見えるのかもしれない。

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