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舞台演出のための基礎映像講座【内容振り返り】
23年9月16日、広島市安佐南区のマエダハウジング安佐南区民文化センターにて「舞台演出のための基礎映像講座」の講師を務めさせていただきました。
こちらの講座は、私が所属している安佐南区の演劇グループ「シアターレトロマーケット」があさみなみ芸術文化支援事業の一環として行った【演技をしたい!してみたい!を応援する参加型ワークショップ】全3企画の2つめとして開催されました。
ちなみに残りの二つは「基礎演技講座」と「舞台スタッフ体験講座」。
演劇に関わるさまざまな分野をそれぞれの専門スタッフから学べる参加費無料のワークショップでした。
どうして演劇のワークショップに映像が独立して入っているのかというと、安佐南区民文化センターでは「プロジェクションマッピング芸術文化支援事業」というものを行っており、シアターレトロマーケットはその事業の一環として演劇の舞台演出に積極的にプロジェクションマッピングなどの映像演出を取り入れているからです。
最近舞台演出で使われることが増えてきたけど、実際映像演出ってどういうものなの?というのを講座形式で4時間にわたりお話、実演してきました。
以下は当日の講座でお話しした内容のまとめ記事になります。
時折挟まる画像は当日使用したスライドより流用、会場写真はシアターレトロマーケットのみなさまに撮っていただきました。
01 自己紹介
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まず、講師を務めた私の自己紹介から。
広島市を中心に、映像制作や舞台演出、インタラクティブコンテンツの制作を行っています。
「インタラクティブ」とは「双方向」という意味で、センサーなどを使い鑑賞者の動きで作品に変化を与える仕掛けのこと。ただ見るだけではなく、自分の行動によって変化する作品制作を行っています。
02 講座の流れ
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13:00~17:00の計4時間という長丁場で行われました。
私の計算間違いにより、3時間くらいを想定していたのに1時間伸びてしまうことに。。
13:00~ 映像について解説
14:00~ 過去の演出素材で実演
15:00~ 2020年公開の無観客上映作品をピックアップして解説
16:00~ 質疑応答など
というタイムテーブルでお話をしました。
03 今日の目的
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初心者のための講座という目的があったため、今回の講座では実際に映像演出をするハウトゥーには触れず、あくまで「概要」のお話に留めることにしました。
参加された方たちの受講理由を聞いてみると「舞台演出に興味がある」「役者をしているので裏方のことも知っておきたい」「映像演出に興味がある」などさまざま。
実際に演出に使うソフトや技術は一旦置いておき、どういう仕組みで映像演出を行っているのか、映像演出をするとどういうことができるのかというお話を中心にしました。
04 第1部:映像演出について
さて本題。
まずは映像投影に必要なハード面の解説から入ります。
映像投影に必要なもの
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パソコン、ソフトウェア、プロジェクター。
この3つがあれば映像投影が行えます。
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当日はこのような感じで、区民文化センターにあるホールにて行いました。受講者10名弱に対してこの広さ。超贅沢。
持参したパソコンにスピリッターをかませてスクリーン&ステージの壁2か所に同じ映像を投影し、映す場所やプロジェクターによる見え方の違いを感じてもらいながら講座を進めていきました。
ちなみに私は映像演出にTouchDesignerというソフトを使用しています。
なにか投影してみよう
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過去に実際に舞台で投影した素材を映しながら解説。
2枚の写真でステージに投影されている画像のサイズが異なるのは、このホールに設置されているプロジェクターはリモコン操作でサイズや投影位置を調整できるからです。
全体を覆ったりあえて部分的に投影したり、ソフトでのマスク機能も使いながら調整しています。
シアターレトロマーケットについて
ところでこの演劇グループ「シアターレトロマーケット」ってなに?という解説。
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ホールや大広間(区民センター内の部屋)など、公演内容にあわせてさまざまな場所で、映像演出を用いながらの演劇を行っています。
映像を用いた演出を取り入れるというよりは、演劇と映像をどちらも楽しめるような構成を目指しているため、劇中は背景や部分的な演出のみでしっかり役者さんたちの演技が見れて、幕間やOP・EDは映像演出で派手に、とう作り方を行っています。
映像演出できるようになるためには?
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中身の素材は、映像演出に限っては必ずしもすごい映像が作れる必要はないと思っています。
なんなら映像じゃなくて画像でもいい。描いた絵でもiPhoneで撮った写真や動画でもいい。どんな素材がいいかは演出家次第。
絵本のような世界観がいいと言われたら絵を描いたり、実写がよければ撮影しに行ったり。
もちろんどんな映像でも高クオリティで作れるに越したことはありませんが、最終的には「ステージとの親和性」が求められるので映像だけが目立ちすぎるステージはちょっと違うんじゃないかなと思ったりもします。
さまざまな手段で素材を作成していきます。
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投影セットは上述したとおり、3つあれば大丈夫。
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そして物体に投影する。
スクリーンに映さなければいけないという縛りはまったく無く、舞台装置や壁、物体があればなんでもスクリーンになります。
以上が第一部でお話しした映像演出についての解説でした。
ここで休憩をはさんで第二部へ。
05 第2部:過去作品を見ながら解説
第二部はシアターレトロマーケット過去作品の事例を紹介しながら実際に行った演出方法のお話をしていきました。
ところが第二部以降には台本がなく、完全に行き当たりばったりで進めていたため何を話したかほぼ覚えておらず……
とりあえず、シアレト過去作品の紹介をしようと思います。
2020年 あずきのアイス殺人事件
私がシアターレトロマーケットに加入して初めての映像を絡めた作品。
私にとっても初めての映像演出でした。
ホールのステージで無観客上演・撮影のちYouTubeへ投稿しました。
コロナ禍に行った無観客上演プロジェクト「D.E.M.O」からの1作です。
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収録作品ということを利用して、死人を生き返らせる演出を入れてみたりしました。
初めてということもあり、いろいろと実験的な試みを行っています。
2021年 アトとゼタ
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こちらも同じく無観客上演作品「D.E.M.O」より。
巨人と小人の絵本作品を、遠近法を用いて再現しました。
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巨人はステージの前方に立ち、背景には引きの絵を。
小人はステージの後方に立ち、背景には寄りの絵を。
語り部はステージの中央へ。
遠近法と絵の効果によって二人の大きさの違いを演出しました。
背景のかわいいイラストは知り合いの映像を勉強している学生さんたちにお願いしました。
2022年 ひばくポンプ
コロナが落ち着いてきたころ、私が加入してからは初となる有観客での上演を行いました。
題材となったのは絵本「ひばくポンプ」。広島市に住む当時小学4年生だった女の子が夏休みの自由研究で描いた絵本がクラウドファンディングによって書籍化、県内の図書館や小学校に寄贈されています。
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舞台には女の子が電停前のひばくポンプと出会う実写パートと、出会ったポンプさんによって語られる昔話の絵本パートの2種類があります。
中央のポンプと左右の出はけ口のパネルに背景と連なるように映像を投影しました。
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ポンプの前を人々が行き交うシーン。背景に溶け込むようにとあえて役者にも映像をそのままあてています。
よく見てもらうと、役者の影の部分にも映像が。
この舞台では客席後方の左右から中央に向かって同じ映像を重ねて投影しており、人が行き交ってもその影によって背景の映像が隠れてしまわないように工夫しました。
2023年 こんにちは。シアターレトロマーケットです。安佐南区で演劇をするグループです。~あなた100まで、ぼく99まで~
コロナ禍以降初の本公演。
全8作によるオムニバス公演になりました。
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背景に映像を投影して演出したり、
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各作品のタイトルアニメーションなど、随所に映像演出を散りばめました。
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ちなみにこの公演では客席をステージに組み、通常とは逆方向で会場を作りました。
ホールに設置されているプロジェクターを背面から映すことで、役者には映像が被らず背景全体に映像投影ができます。
シアターレトロマーケットでは以前に一度この形で公演を行われていたそうで、舞台制作も慣れた手つきで作業されていました。
06 おわりに
講座の後半どんなお話をしたかほぼ覚えていませんが、ひとつだけ覚えている話があります。
自分の知識には限界があり、知っていることの範囲でしか動くことができません。
実際にやるかどうかの前に、まずは「知ること」が大事だと思っています。
べつにすべての舞台に映像演出があった方がいいとは思っていません。
シンプルな照明の中で役者の演技が光る作品はたくさんあります。
でも映像演出という技法を知らないから舞台で照明だけ使うのか、映像演出という技法を知っていてあえて舞台で照明だけ使うのか。きっと仕上がる作品の説得力は異なってくると思います。
「こういう演出もできるんだ」と知っていれば、別の場面で「これができるならあれもできそうかも?」と思えるし、「こういうことができる人がいる」ということを知っていれば、いざというときにその人を頼ってやりたいことを実現させることもできる。
私に対しての自戒も込めてのお話になりましたが、自分の興味のある分野はもちろんあらゆるものにアンテナを立てて参加したり見てみることができたら、自分の想像力ももっと豊かなものになるなと思っています。
以上が先日の映像講座の内容でした。
当日参加してくださったみなさま、講師初挑戦で緊張が止まらなかった私をサポートしてくださったシアターレトロマーケット&センター職員のみなさま、そして振り返りの超長い記事を読んでくださったみなさま、ありがとうございました。
私の個人事業Asagi Lab.では舞台演出も含めて映像制作やVJ、インタラクティブコンテンツの制作など色々と行っているのでどうぞよろしくお願いします。