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#23 死別3日目② --さらば、また会う日まで
葬儀場から帰宅後
学生時代に親しかった地元の友人に、今回のことをライン。
聞きたいことがあったので、電話する時間をもらった。
その友人は数年前に事業をしているお父さんが病気で亡くなり、相続放棄をした経験がある。
どんな流れだったのか、債権者への対応はどうしたのかを聞きたかった。
友人は、日曜日にも関わらず、丁寧に教えてくれた。
でも、何でも自分一人で対応しようとしている私に、釘を刺した。
「あのさあ、全部自分で抱えこむなんて、絶対に無理だから。
そして、不毛すぎる。
これから子どもを産んで育てていかなければいけないんだから、そっちだけ考えたら。」
相続放棄はしたものの、当時大きな代償を払った経験者の言葉は重すぎる。
更に友人は続けた。
「話を聞く限り、向こうの家族は、夫さんには借金どころか財産があると思ってるんじゃないかな。
そして絶対にあなたには取られたくないと思ってる。
だから、全部押し付けたらいいじゃん。向こうも喜ぶさ。」
・・・何というか、死別直後から各方面に叱咤叱咤激ちょい励されてるような、、
もっとこう、悲しみに寄り添ってくれる人はいないのかねえ?!
でも、ありがとう。背中を押してくれてありがとう。
夜、夫の両親に葬儀のプランを連絡
夫の父親に電話を掛けたところ、長い呼び出し音の後に、ようやく出た。
音が響いていて、スピーカーになっていることにも、すぐに気づいてしまった。
今日、葬儀場で夫と面会し、作成してきたプランについてどうか聞いた。
プランは少し前にFAXで送っていた。
すぐにダメ出しが入った。
費用が高い、いくつか候補日を挙げてもらわないと話にならない、開始時間が早すぎて夫の友人たちが間に合わない、香典なしはあり得ないetc..
死後離婚をするつもりなので、夫の家族と今後円満に付き合っていく必要はない。
葬儀の費用は私が出すと最初に伝えたし、出産2週間前だから葬儀の日時を後ろに下げられない。引っ越しや手続きや仕事もある。さすがに友引は避けないといけないし。すでに葬儀場の予約が埋まっている日もある。
更に言うと、夫の場合は密葬か家族葬が適切なはずだ。だけど最大限に譲歩して、おまけにその友人たちとやらの財布事情も加味して香典なしという設定にした。
私なりに最大限の配慮と努力はしたと言っていい。
あくまでも、下手に
夫の父親の言い分(ではなく、隣で誰かに言わされている感)を聞き終えた後、音を拾われない程度の深呼吸をした。
すうーーー
よっしゃ、言うか。
「そうですよね。おっしゃる通りだと思います。
私ができる範囲で計画を練ってみたのですが、難しそうですね。
ただ、出産前で体調も良くなくて、値段を抑えられる葬儀屋さんを探したり、打ち合わせなどで動けなそうです。
明日、葬儀屋さんに電話して今のプランをキャンセルしますから、夫くんの葬儀は、お父さんにお任せしてもいいですか?」
夫の父親は、ちょっと驚いたように無言になった後(おそらく周囲の人たちの意見を聞いている)、「わかりました」と一言。
声の感じから、思いがけず決定権が回ってきたことに喜んでいる様子がうかがえた。
「ありがとうございます。よろしくおねがいします。
あと、、
私は葬儀には欠席します。その方が、きっと皆さんお別れがしやすいとおもいますから。」
更に全力で下手にいって、最後に「みどりさんも、体に気を付けて」という言葉ももらった。
私は無事、双方穏やかな話し合いのもと、夫もろとも放棄することに成功した。
出産と育児と仕事を最優先に考えて、冷静な選択をしたと自分を褒めてやりたい。
後日談
あの時の電話が、夫の家族との最後の電話だった。
(ただし、後日、刑事や弁護士を送り込んでくる)
なので分骨などはないし、お墓の場所も知らない。
仏壇も家に置いてないし、夫の写真も封印したまま。
だけど全然気にしてないし、困ってない。
夫は事業主だったので、いきなり亡くなったことで債務が残った。
それは金融機関だけでなく、お客さんや業者にも及んでいたはず。
だけど早々に相続放棄をして、葬儀にも出なかった私に連絡してくる事業絡みの債権者は銀行だけ。
得体のしれない債権者に自宅まで押しかけられて「金払え」とか言われてたら正直きつかったと思う。穏やかな子育てできてなかった。
厳しい言葉と共に、冷静な所感を伝えてくれた周りの人にも心から感謝している。
私もしっかりと、未来に向けての舵を切れた。
夫とはまたいつか、会えるだろう。
その時は文句の一つでも言いたいものだ。