朱に交われば赤くなる(5)

浴室に入った僕


最近、髪が伸びた自分に気付く。
そういえば床屋になかなか行ってない。ぼさぼさの髪だ。
ふと、記憶が蘇る・・・

クラス内、いつも現れる少女、僕の隣に座り、僕の事を見ては、くすくす笑う。
少女は女友達と談笑していた。
左右に顔を振ると、両サイドの髪は、少し火照った小さな耳をくすぐる。
さらさらとした髪を持つ美少女であり、と同時に、ぷるんとした唇を持つ。
彼女が窓辺に立ち、空き放たれた窓から受けるそよ風は、
彼女の髪を優しく撫で、髪は至福の輝きを増す。

彼女は公言する。
「私、最近、このシャンプーに凝っているの」
クラスの女の子は全員食いつく。僕もその例外ではなかった・・・

帰宅後の浴室内、僕は、そのシャンプーを偶然にも手に取っている。
いやいや、ありえない。狼の獣毛が羊の柔毛になりえない。

しかし、僕は数週間、健気にもそのシャンプーを使い続けた。

「お、お兄ちゃん、私のシャンプー使ったでしょう」
妹は、シャンプーの減り具合と僕の髪質を見極め、断言する。
妹には、何もかもお見通しだ。

僕はしぶしぶシャンプー代を払おうと、財布に手をかけた。
すると妹は、
「ふ〜ん。あのシャンプーって結構効果あるんだ。いまいち効果に疑問があったんだけど、今ここで、はっきり分かったわ」

妹は僕のさらさらとした髪を手櫛で漉き、感心したような面持ちだった。

「ありがとうね、お兄ちゃん。
でも、これからは自分で買ってきたボトルを使ってね」

妹は軽やかにこの場を過ぎ去った。

何故か妹は僕がこのシャンプーを使い続けた理由については別に問うこともなかった。

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