朱に交われば赤くなる(15)

寸評

次の日の放課後、僕らの描いたデッサン画が張り出されていた。
看板には、デッサン画展と書かれていて、男の娘なんていう言葉は全くない。安心する。
まず、一通り、皆の作品を見てみる。驚いた。力作揃いだ。
凄く、僕の表情を、同じ絵がないくらい、皆、個性豊かに捉えている。

僕は、今、セーラー服を着て、この展示室にいる。

と言うのも、デッサンの授業が終わった後、先生は、僕に、突拍子もない提案を持ち掛けたのだ。
「もうじき、生徒達の描いたデッサン画が展示されます。
当然、あなたも見に行くでしょう。
でも、困った事が此処でおきないかしら?
僕は想像してみた。

僕はごく普通通り、展示室で絵を鑑賞している。勿論、詰め襟の学生服姿だ。
当然、室内は他のクラスの生徒達も見にきている。
ふと、隣を見ると、女子生徒は腑に落ちない様子だ。
女の子は、独り言を言う。
「このモデルの娘、今、私の隣にいる男の子にどう見ても、そっくりなんだけど」
彼女は、不躾にも、僕の顔を凝視する。
僕は顔を赤らめる。
「ち、違うんだ、こ、これは、無理矢理、モデルをやらされて」
女の子は笑う。
「いいのよ。人は皆、いろんな趣味を抱えて生きているものだから。許したげる」

先生は言う。
「いっその事、学校には、セーラー服で通ったら?
その、モデルの服は貸しといてあげるから。
そうね、でも、一週間位内には、あなた専用のセーラー服を注文してきてね。

まだ、一週間の猶予がある。
よしとしよう。

一枚目の絵を見る。
僕の横顔が描かれている。
何だか、モデルになった事が、今更ながら恥ずかしい。
セーラー服を着た自分。
モデルになった以上は指定された衣装を着て、その場を動く事は、許されない。
そんな拘束された自分が、微笑ましく思える。
視線を顔から徐々に下に移す。
ふと違和感に気付く。
喉あたりだ。
微かに喉仏が出てる。
女性にはあってはならないもの。それが今、このモデルの女性には、備わっている。
僕は、思わず、悲鳴が出そうになった。
この絵が、hpや官公庁に飾られるかもしれない。
隣にいる女の子は、僕を見て、クスクス笑っている。

僕は、気を取り直し、二枚目の絵に集中した。
同じく、横顔だ。
視線を顔から、徐々に下に向かう。
又もや、違和感が。
胸のあたりだ。
女性にとっては、あっては当たり前のもの。
それが今、このモデルの女性には、備わっていない。
僕は今、あの時、先生に、ブラジャーを望まなかった事を悔やんだ。
三枚目の絵。
視線を下に移す。
襞スカートの、股間部分が、僅かに盛り上がっている。
あん、あの時、ショーツさえ穿いていれば、少しは防げたかも。

それからの僕は、セーラー服を着る時は、必ず、ブラとショーツは必需品とすべき事は、肝に銘じた事だった。

四十一枚目の絵。
その絵は違っていた。

写実ではなく、抽象的にも程遠い。
僕の絵だ。
自分でも顔が赤くなるのがわかる。
どうして、こんな絵を描いてしまったんだろう。自分でも分からない。要は下手くその部類に入る。
あの時の僕はどうかしていたんだ。もうこれでは、僕は特待生にはなれない。

気付くと、いつのまにか、僕の隣りにずっとついて来てる女の子は、僕の絵を食い入る様に、じっと見ている。

あん、女の子にそんなに見られるのは、すごく、恥ずかしい。モデルになったセーラー服女装が恥ずかしいのか、絵が下手くそで恥ずかしいのか、自分自身、分からない。
たぶん、両方なんだろう。
女の子はつぶやく。
「素敵」

その、つぶやきは、耳を疑った。
ありえない。こんな、下手くそな
絵が。
僕は、思わず、低い声で、抗議を込めて、
「な、なんだって」

女の子はつぶやく。












思ったより、話が長引きそうです。後日、更新します

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