朱に交われば赤くなる(14)
肖像画(2)
先生は言う。
「尚、描き終えた作品は、学校の玄関の廊下及び、校長室の隣の展示室に一ヶ月間、飾られます。
皆さんの力作ですから、出来る限り多くの人に見てもらおうと思っています。
それに加えて、なんと私達の高校のホームページにも掲載されますので、がむばって下さい」
「在校生、学校への訪問者そして、HPにも開放されるという事は、私達の作品は彼らの評価が成績に加味されるという事なんですか?」
「それは、ありません。
芸術は、大衆に迎合するものでは、ありません。あなたの思うがままに自由に描けばいいんです」
「では、なぜ、発表するんですか?」
「せっかく、あなた達が造った作品なんだもん。
大勢の皆さんに見てもらいたいんじゃない?」
僕はびっくりした。
まさか、僕のモデルの絵がそれも、僕も含めて41人もの絵が学校に展示されるとは。
僕は不安しかなかった。僕の女装が皆に公開されしまう。
「先生、やっぱり、僕、無理です」
「大丈夫よ。デッサンなんだから。写真じゃないのよ。あなただとは、誰も気付かないわ。それに、男の娘だというテーマは、ここにいる子は誰にも口外しないと思う」
僕は、彼女等を見渡した。
誰も口外するような子たちには見えなかった。
イーゼルの前の姿見には、セーラー服姿の清純な僕が映っていた。
先生は僕の耳元にそっと囁いた。
「それに、こんな可愛い子が男の子だなんて、誰も信じないわよ。
!もっと、自分に自信を持ったら?」
僕は、イーゼルに向かい、デッサンを書く、木炭を手に取った。
改めて、鏡の中の自分を見る。
椅子に座った、プリーツスカートは、腰から脚のふくらはぎまでを、美しいラインで覆っている。
斜めに伸びる両足は、スカートからソックスまでの領域内で微かにしか見えないが、その素肌には惹きつかれる。
僕は願った。
僕の姿を可愛く描いて欲しい。
僕は今、女子高生そのものだ。
なんなら、彼女達の言うことなら、なんでも聞く。
僕は覚悟を決め、彼女達に委ねる。
皆、イーゼルに向かって、一心不乱に闘っている。
残念な事に、僕の方からは、そのキャンパスの内容については窺いしるよしはなかった。