朱に交われば赤くなる(4)
玄関を開け、靴を脱ぐ
廊下を歩き出した僕は、ふと下を見ると、何かが落ちているのに気付く。
小さな筒状のもので、カラフルな装飾が施されている。
これには見覚えがある。
僕は記憶を辿っていた・・・
クラス内は、女の子達の賑やかな声で弾けていた。少女のセーラー服の胸ポケットから取り出したそれは、まるで魔法のアイテムかのように、皆の羨望の的になっていた。
「わぁ!それって新色じゃん。でも、色、濃ォー、目、つけられへん?」
「大丈夫、うちの学校って、緩いじゃん」
そう云うと、少女は、円筒部分の下部を細い指で、廻し始めた。
艶めかしい先端部分が露出し、少女は、嬉しそうに眺め、それを唇の輪郭から外れない様に、ゆっくりと唇に添わせ、少し大人びた女性へと、変貌させた。
唇に生気を与えられた少女は、手鏡を見ながら、恍惚な表情で、呟く。
「も〜、女の子って最高〜」・・
はっ、僕は現実に戻った。目の前にあるのはリップスティック。
僕は、震えながら、艶めかしい先端部分を露出させ、唇に静かに近づけた。
もし僕の唇にこの口紅が重ねられたら、あ〜、僕はあの少女と一体化してしまう。
僕があの少女と同じ、ぷるんとした唇になってしまったら、僕は男性から接吻を受ける側になってしまう。
「お、お兄ちゃん、何してるの」
はっ、えっ、
ジト目で見ている妹だ。
僕はパニック寸前だ。
「ち、違うんだ、これは」
「もしかして、私と間接キッスしたかったとか?兄妹なのに?
禁断の関係?正直言ったら?」
「ち、違うんだ、これは」
僕は、しどろもどろになりながら、頭をフル回転させる。
「ち、違うんだ。こ、これは・・・そ、そうだ、確かにお前は可愛い。だから、つい、ふらふらと。ごめんなさい」
妹は、みるみるうちに、顔を赤らめ、満面の笑みを浮かべ、
「えっ、私って、そんなに可愛いんだっけ。そりゃ皆んなから、言われるけどさ」
「・・・・・」
妹は軽やかにこの場を過ぎ去った。後日、僕は妹から同色の新品のリップスティックを渡された。
「可愛い妹からのプレゼントだよ」
「・・・・・」
「でも、使うには、勝負デートの時が推しだよ」
「はい・・・」