朱に交われば赤くなる(8)
妹の部屋に入った僕(3)
僕はブラをする決断が出来ない儘、部屋のドアノブから目が離せなかった。
今にも、勢いよくドアが開けられ、妹が入ってくるという未来予想図が何度も、頭をよぎっていたから。
僕は数十分、ドアノブと対峙していた。
すると、あれっ?
よく見ると、ドアノブの中心部分には押し釦のようなものがついている。
こ、これは、もしかして、
ロック機構。何と言う幸運。
これを押してさえすれば、部屋の外から中には、ドアを開けて、誰も入って来れない。
そしてここは2階だ。窓から侵入は梯子がない限り不可能。
推理作家が最も好む密室状態。
妹は、不幸にも自分のプライバシーを守るつもりだったのが、皮肉にも、兄のプライバシーをも守る事になってしまったようだ。
もし、ドアがノックされても、
「あっ、僕だ。中にいるのは僕だ。ごめん。入って来ていいよ」
しかし、ドアはロックされてる。
そう言って、僕は超特急で元通りに着替えさえすれば問題ない。
「もー、お兄ちゃん、何で、私の部屋にいるのよ。それに何でロックなんかしてんのよ」
時間稼ぎになる。
「ごめん、ごめん。こないだ貸してあった(ザ美術)を返して貰おうと思って。えっ、ロック?あれ?かけてあったっけ?じゃぁ、トイレ入ったつもりで無意識にかけたかも」
完璧だ。もう、妹が突然帰って来ても何の問題もない。このシナリオ通り、やり過ごせばいい。
そう思った瞬間、僕は震えた。
何故なら、女装した僕が見られてしまうという危険要素は完全に取り除かれてしまったから。
僕にはもう着替えるしか選択肢はなかった。