![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/150012290/rectangle_large_type_2_41f8fcd155242c7184d3d0343f4bee00.png?width=1200)
Photo by
d_a_i_c_h_i
ゴメが啼くとき(連載25)
勇には、夕張に実兄がいた。勇より二歳上だった。その兄は離婚をしており、三人の子供と一緒だった。
ところが、炭鉱夫の兄が、坑内の落盤事故で下半身不随となってしまったのである。
勇と義母のキヨは、文江を入れて話し合った。夕張からは、すぐにでも来てほしいと連絡が来ていた。
ついに、家族そろって夕張行きが決まった。
あちら(夕張)には三人の子供がいる。
文江には、昭和三〇年(一九五五年)、新たに三人目の女の子が生まれており、また新たに命が宿っていたのである。
昭和三十六年(一九六一年)の十月、四人目の女の子が生まれた。
義兄の子供三人と文江の子供四人、子供だけで七人、それに義母のキヨ、勇、義兄の春男、文江の十一人の大家族になる。夕張に行ったら、子供七人の世話が、すべて文江にのしかかる。
しかし、文江は怯まなかった。七人分け隔てなく面倒をみよう。義兄の子供三人も、自分の子供のように接しよう。
小さい頃から他人の家の飯を食べてきた文江は、義兄の子供たちに、そのような窮屈な思いは、絶対させてはならないと思うのであった。
そして総勢七名が、襟裳庶野から夕張に出立したのであった。
昭和三十六年(一九六一年)暮れの十二月、ついに夕張に引っ越した。文江三十二歳になっていた。
福住二区の十軒長屋に住むことになった。
文江は、下村先生から貰った絵本を大事に行李の奥に仕舞い、夕張に運んだ。
文江には、この絵本を眺めていると、小さい頃からの思い出が蘇えり、勇気が出るのだった。