【連載小説】憐情(12)
台風が去ったある日、今度の土曜日に妹家族が一泊で家族で遊びに来ると、電話があった。
妹家族三人が泊まるスペースはない。
また皆で話し合った。
狸一家は家の裏庭に円形古墳のような住居を建て、そこで暮すことを希望した。私もお袋もその提案に同意した。
早速、準備に取り掛かった。土曜日までにはまだ三日ある。大急ぎで資材の調達やら工具の買い付けやら、裏庭の整備に一日中費やした。なぜか狸一家は大工仕事も上手い。
まず、裏庭に、木材で櫓を組み、札幌の雪まつりの雪像の作り方を参考にした。その櫓に平板をまわし、その外側に土を盛った。その盛土に芝をはり、こんもりと円錐形の、まさに古墳のような姿で、住居になる部屋の内壁は漆喰で仕上げた。出入口は狸が通れるほどの大きさにした。木板の扉もつけた。穴の中は広く、快適に過ごせるようにした。
勿論、大雨でも対処できるよう、住居の周りの排水溝も備えた。
私は昼間は会社の為、夜に小屋建ての仕事に専念した。金曜日の夜に、「狸住居」は完成した。
なかなか見栄えのいい出来であった。皆満足した。
土曜日の午前中、狸一家は引越しをして、家の中を片付け妹夫婦の到着を待った。
狸一家は土曜日と日曜日は、我が家に入ることを遠慮すると言い出した。
私とお袋は遠慮などしなくていいよといったのだが、そうは言っても賑やかになると必ずやってくるはずだと、顔を見合わせて頷きあった。
午後、妹夫婦と長男が遊びにきた。
家の前に車を止めると、車から降りた妹の長男は裏手のほうへ歩き出した。実家に近づいて来る時、家の裏手に真新しい小山が見えたのである。
長男はその小山の入口の扉を開けた。中には狸が三匹いた。「こんにちは」と長男が声を出した。
「来たのね。どうぞ入って頂戴」とお母さん狸が手招きをした。
しかし、長男の大きさでは、入口から中へ入ることは無理である。
妹の長男は、入口から中へ向かって、
「素晴らしい住居だね、ここに住むことにしたの?」
「そうなの、以前住んでいたところが台風で壊れちゃったので、皆で造ったのよ」とお母さん狸が嬉しそうに答えた。
「君のお父さんは私達のこと知っているの」とお母さん狸が妹の長男に尋ねた。
「うん、知ってるよ。大丈夫だよ。お母さんがこの前のこと話していたもの」
「そう、あとで皆で挨拶に伺うわ」とお母さん狸が言った。
その日の夕方から狸一家も交え、宴会を催すことになった。
その夜は遠くまで賑やかな笑い声が聞こえたのであった。
そして日曜日の午後、妹一家は帰って行った。