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【連載小説】リセット 11

 芳樹は松江教授宅を辞し、御茶ノ水駅方面に歩きだした。ゲリラ豪雨はすっかり止み、雲間から日差しが差し込んでいる。
 懐かしい大学や池波正太郎が晩年定宿としていたホテルを眺めながら御茶ノ水駅まで歩き、自宅に戻ろうと思い立った。

 松江教授宅を事前に連絡もなしに訪問したのは、幸子とのことを先生に報告しなければと思いながら仕事の忙しさにかまけて間延びしていたこともあり、今朝起きがけに思い立ち、訪問したのであった。

 芳樹は、神保町の交差点を抜け、神田猿楽町まで来た。
 幸子が勤めている小学校は、すぐそばである。幸子がすぐ近くで働いていると思うと、すぐ会ってみたい衝動に駆られた。
 大学へ登る手前に公園がある。お茶ノ水幼稚園の小さなグランドを兼ねた公園である。錦華公園の名がついている。

 枝の込み合っているカシの木の上方にカラスの巣があるらしい。下からは、良く見えない。しっきりなしに親ガラスが出入りしている。卵を抱く時期は気が立っているので注意しなければと思った。
 幼稚園児がグランドで駆け回っている。ブランコの傍では、近くの大学の学生らしい二人が、漫才の練習をしていた。

 いい空だ。雲のゆっくりとした流れがこれまたいいと芳樹は両手を挙げて背伸びをした。

 その公園の出たところに、慶長元年創業の有名な酒屋の本店がある。小売りもしているようだ。
 店の軒先に三十センチほどの茶色い杉玉がぶら下がっている。芳樹はその酒屋で日本酒のワンカップを一つ買った。
 グランドから少し嵩上げしたところのベンチに芳樹は腰を下ろした。ベンチの上に大きな樹木の枝が垂れ下がっている。
 公園で飲むのは憚れたが、ぐいとのどを潤した。
「ふぅ うまい」と一言呟いた。幸子が知ったら大目玉だ、と思ったら自然に笑いが出た。

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