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短篇小説 晩景の花火(21)

 後日、つばめ探偵事務所の冠は、原宿の東郷不動産に顔をだした。事前に伺うことを連絡していた。
「いらっしゃいませ」と事務の女性が、明るく応対に出た。奥から東郷裕が顔を出した。
「東郷さんですか?」と冠が笑顔で言うと、
「冠さん、忙しい中、わざわざすみません」と裕も笑顔を返した。
「ここではなんですから、近くの喫茶店に行きましょう」と裕が冠を竹下通りにある、ビルの二階の小じゃれた喫茶店にさそった。

 裕の話を詳細に聞いた冠は、後日、長岡に飛んだ。
 長岡では、三日間市内をくまなく歩き、裕の妹たちの消息を訪ね歩いた。
 裕のすぐ下の妹は、長岡市内で所帯を持ち、子供が三人いた。
 次妹は静岡で独り者だった。三日間で二人の所在を突き止めた冠の手腕はただ物ではない。
 東京に戻った冠は、調査報告書を携えて、原宿に行き、裕に報告したのだった。
 報告書に目を通した裕は、
「冠さん、ここまで詳細に調査していただき、ありがとうございました」と言って頭を下げた。冠は調査費用の明細書と請求書をテーブルの上に差し出した。
 裕はカバンから茶封筒を出し、冠に渡した。
「領収書はどうしますか?」
「私個人の費用でお願いしましたので、結構です」とあっさり言った。冠は心配そうに「これからどうします?」と裕に聞いた。冠のおせっかい心が顔を覗かせた。
「そうですね。近いうちに妹たちを訪ねるつもりです」と裕は遠い過去を見つめながら答えた。
 
 裕は社長として、日々忙しく働いていた。
 忙しさがたたり、裕は風邪をこじらせた。
 自分は何歳まで働けるのか、いや何歳まで働けばいいのか。最近そう考えることが多くなった。
 一週間ほど自宅で静養し、会社に出た。
「社長! おかえりなさい」と東郷不動産の全員が喜んでくれた。会社の中は良い雰囲気だと、裕は感じた。
 その夜、『ニューチャト』と『ニューカサブランカ』にも足を運んだ。みな生き生きと仕事をしていた。
 従業員の姿をみた裕は、ふと心の中で、妹たちに会いに行こうと思い立った。
 

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