【連載小説】憐情(6)
その夜、妹から私に連絡があった。
実家での出来事を事細かに、電話で話してくれた。
私はショックを受けた。
お袋のことを、何も解っていなかった。
深い反省とともに遣り切れなさを感じた。
何とかしなければならない。
私は独身である。いままで所帯を持ちたいと思うことは、無かったと言ったら嘘になる。
それにしても、わざわざ都会にまで出て、仕事をする意味はあるのかと、ふと思った。
昔の日本は、自分が生まれたその土地で仕事をして、その土地で所帯を持ち、そして親の面倒をみて死んで行く。
特に長男の場合は、そのような縛りがあったのも事実である。
それが、最近では、田舎で取り残された親は、衰えていく自分に抗いながら、孤独に死んでいく。
お袋の今回の行動は、私たち兄妹に示唆を与えてくれたのであった。
その年の暮れ、私は、実家に顔をだした。
「お前、その顔の額の傷はどうしたの?」
「ああ、たいした事はないよ」
「そうか、血が出たのじゃないか」
「まあ、大丈夫だよ」
「そうか」
親子の会話はこのように、なんと味気ないのか、それでいてお互い通じている。
実家に帰ったその夜、お袋と二人で話し合った。私から切り出した。
「俺、帰ってくるか? お袋」
「無理しなくていいよ、仕事はどうするんだい」
「いまの仕事は止めるよ」
「やめてどうするんだよ。ここら辺では仕事を探すといっても難しいよ」
「少しばかりの蓄えもあるから、しばらくは、のんびり探すよ。お袋は俺が一緒に居るほうがいいだろう」
「そりゃそのほうが心強いよ」
「だったら、仕事止めて帰ってくるよ」
「・・・・・・」
「決めるよ!」
そういうことで、実家に戻ってくることにした。
このことは、勿論、事前に妹に話していたのだった。
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