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あゝ 上野駅

 夜の帳が落ちて1時間ほど経ったある日の夕方、よく立ち寄る上野のスナック。
 カウンターに座り、水割りを頼む。そして暫くマスターと世間話しをする。
 中学卒業と同時に青森から集団就職で上野に来たマスター。
 当時、大勢の若者が希望に溢れ、上野駅に降り立った。
 彼は、苦労しながら働き、夜間高校、夜間大学を卒業した。そして定年後この店を始めた。
「何か一曲どうですか」「いや・・・・」と言いつつ頭の中で曲を探す。BGMだけが流れる。
 暫くして「上野駅でも歌ってくれませんか」とマスターからリクエストが出た。
「それじゃ『あゝ上野駅』でも唄いますか」と言うと、マスターがマイクを渡してくれた。 
 イントロが流れ出した。なぜか杜甫の岳陽楼に登るを思い出し、自然と涙が一筋、頬をつたわった。
 【了】


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