【連載小説】憐情(14)
お袋は朝が早いので、夜は早めに床に付く。
両瞼が閉じだしたら既にスリープモードである。
裏庭の狸御殿から狸一家が遊びに来る時刻には、すでにお袋は寝ていることが多いのだ。もっぱら狸の話し相手は私に相場が決まっている。狸と様々なことを話し合う。
例えば、生物はどうして、人間や狸や馬や牛や他の動物、また小さな虫などに差別化されてこの世に生まれてくるのかとか、同じ人間に生まれてきても裕福な家庭に生まれる人など貧富の差がどうしてあるのかとか、日本に生まれたりアメリカに生まれたり、ブラジルに生まれたり、これらは偶然なのか必然なのか.… など。
私は狸も日頃から深く考えているのだと感心してしまうのであった。
ただし、次の日に仕事のある夜は、差し障りのない時間で切り上げてもらう。
明日が休みの前の晩は遅くまで、懇談しているのであった。
私はこのかけがいのない狸一家を大切にしようと心の底から思った。
狸一家と懇談していても、ちっとも疲れないのである。ほのぼのとした中にも、もっとも大切な中身の濃い事柄を議論する。本当に充実した日々を過ごした。
ただ、どうしても気になったことは、裏庭の隅に大きな蟻塚のようなものが出来上がっていたことだ。
狸の糞、それも溜糞である。溜糞塚なるものが出来上がっていた。これも狸の習性の一つなのだと諦めせざるをえなかった。