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短編小説「別杯」2

 数週間後、駅前の喫茶店で、三人が落ち合った。メンバーは、私こと鈴木と、榎さん、それにカラオケ店の親爺の蛭間さんの三名だ。
 ここの喫茶店は、昭和の時代からあるタバコが吸える店だ。広さは十五坪ほどで、カウンター席があり、サイフォンが五個ほど並んでいる。テーブル席が十席ある。一番奥の四人掛けの席に三人は陣取った。店内の壁、天井はたばこのヤニで黒光りしていて、程よい雰囲気を醸し出している。夕方の時刻で、入っている客は、少ない。
  三人の中で、蛭間さんだけが、いまだに煙草を吸う。止められないらしい。たばこ無しでは、生きていけないようだ。八十過ぎの彼にとっては、今更止めても...…という感じであるようだ。

「蛭間さん久しぶり」と私が声を掛ける。
「最近来ないね。以前は奥さんと一緒に、カラオケしに来ていたね」と蛭間さんが言うと、榎さんが続けて、
「鈴木さんの奥さんは、歌が好きだね」と言う。
「まあね」と私は受け流した。
「ところで、今日ここに集ってもらったのは、われわれも年を重ね、周りを見回すと、この世からいなくなる御仁が増えてきた。我々もいつオサラバするか、時間の問題になってきた。残りの人生、ただジッと家に籠って呆けていくよりも、何かこう刺激のあることをやらかそうではないか、と鈴木さんと話し合い、集まってもらった。蛭間さんにいい考えはないか?」と榎さんが蛭間さんに話した。
「急に言われても、困るけど。そうだね、皆でどんなことでもいいから、提案してもらって、それを書き出し、検討したらどうかな」と蛭間さんが言った。榎さんが、
「そうだね、鈴木さんどう? 書記頼むよ」と、昔会社勤めしていたころの、上司が部下に命令する態度で、私に目を向けた。
 私は、一瞬ムッとしたが、そこは堪えて、
「どしどし出してよ」と、家から持ち出した大学ノートを広げた。

 ゴルフ、ボウリング、釣り、朝のラジオ体操、一日二回のウォーキング、スイミングスクール、映画鑑賞、旅行、等々。
 三人の年齢を足すと二四五、榎八二、蛭間八一、私八二である。私は、皆が出した項目を読み上げた。
「パッとしないね、何かいまの社会・地域に貢献するようなことって、特段これといってね....…」と蛭間さんが言う。そして言葉を繋いだ。
「八十を越した我々は、いままでどれだけ社会に貢献してきたか。おいぼれたこの年になって、まだ貢献か? もういいだろう」と乗り気ではない。

「地域貢献か・・、足腰が弱いのに、体を使っての貢献は無理だよね。まして、気持的に負担になるよね、楽しいことってないかね。そうだ! 三人それぞれの趣味を出し合ったらどうかね」と榎さんが提案した。二人は頷き、めいめい自分の趣味をあげてみた。

 榎さんの趣味は、映画鑑賞、ラジオ体操。蛭間さんの趣味はカラオケと釣り。私は旅行とウォーキングだ。同じ趣味は無い。三人は空になった珈琲カップを見つめ時間ばかりが過ぎる。

 その日は、結論が出ないまま解散となった。
 


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