襟裳の風#9
晴れた日には、岩場で、竹の一本竿の釣り糸を垂らし、アブラコ(アイナメ)やハゴオトコ(カジカの仲間)などを釣ってきては、家計の足しにしていました。
タカノハというカレイの仲間の馬鹿でかい魚を釣ったことがありました。
昆布の群生の中から、それを引き上げるとき竹竿が折れ、一緒にいた父が手伝ってくれ、無事に釣り上げることができたのです。
無我夢中でした。
釣りあげた時には大きなため息をつき、捕獲した安堵からか、全身の力が抜け落ちた感じがしました。
ちょうどそのとき黄金道路を一台のバスが通ったのです。広尾方面から庶野の方に向かっていました。十人ほどの乗客がいたと思います。
岩場からバスまで、五十メートルほどだったでしょうか。
私はバスに乗っている人たちに、そのタカノハを高く持上げて見せたのです。
一瞬の出来事でしたが、疎らに乗り合わせていた人達もバスの窓際に寄り、窓から顔を出し、歓声を挙げてくれました。
大きなタカノハでした。父は喜んでくれました。
近所にその刺身を配ってもまだ食べきれない程のタカノハでした。
『岬めぐり』の歌を聞くときなど、そのときの情景を思い出します。
近くにドンドン岩と云われていた波で岩が削られ大きく抉れた岩がありました。
荒波が押し寄せ岩の凹んだところでドーンと音がして、舞い散った波飛沫で七色の虹がサーと出るのです。
なんともいえない自然の営みです。
今も同じ繰り返しをしていることでしょう。
そのドンドン岩では入水自殺をする人がいました。
もちろん魚釣りの恰好の穴場です。
尊い命を投げ出すことは、本当に勿体ないと思います。