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短編小説「別杯」8

 その後もウォーキングは続いていた。
 少し遠出をし、三人ともバテてしまって、バスで戻る日もある。
 歩いた後の、喫茶店での珈琲が、我ら三人の至福の時なのだ。
 ある日、榎さんが、
「僕が会社を辞めるとき、上司が、榎さんこれからは教育教養ですね」と訳の分からないことを言うものだから「はい?」と言ったんだ。鈴木さんこの意味判るかい」
「榎さん、この問題、あまり真剣に考えない方が良いかもね」と私が言うと、
「さては、トンチ問題かなあ」と蛭間さんが言うので、
「榎さん、その答えは?」と私が返した。すると、蛭間さんが、
「教育と教養か、うーむ」と腕を組んで考え込んだ。するとその会話を聞いていた店のマスターが、「判った!」と大声を出した。
 マスターの回答は、教育とは、今日行くところがあるか?
 そして教養とは、今日用事があるか? ということらしい。
「榎さん、その上司からの回答は聞けたの?」と私が聞くと、
「教えてくれなかった」とあたまを横に振った。
 
 また、ある日、喫茶店で、蛭間さんが、
「ほとんどの人は、人生の最後に三つの階段を降りていくらしいよ」と言ってきた。
「なによ、それ?」と私が聞くと、
「まず、歩行が出来なくなる、次に排泄が出来なくなる。最終的に食べることが出来なくなる。そしてついには、死を迎えるのさ」と蛭間さん。
 榎さんや六十代のマスターも、そうかと真剣なまなざしで感心していた。
 私は、それは当り前のことだろう、もう少し前向きな勢いのある話をしようよ! 前のめりになっちゃいかんが、と心の中で呟いた。
 

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