襟裳の風#6
上から二番目で男一人の私は、よく一人で遊びました。
遊ぶ物には事欠かきませんでした。
近くに親戚の従兄弟がいましたが、その子達とは一緒に遊びませんでした。特に理由はありませんでしたが、一人でこまごまとして遊んでいるほうが落ち着いたものです。
海岸の岩場での魚釣り、当時はカジカ(ハゴオトコ)の仲間やらアイナメ(アブラコ)などが面白いように釣れました。
また木の枝をナイフで削ぎ木刀を作り、一人でチャンバラ遊び、ホッキ貝の殻の真中にくぎで穴を明け、そこに縄を通しカッパカッパと下駄代わりに歩いたものです。
庶野小学校に入学する少し前のこと、長さ一、五メートルほどの小舟が一艘、家の前の海岸にふらふら寄ってきたことがありました。
それを捕えて、舟の中の腐敗したお供え物を捨て、一人でその舟に乗り、海に出ました。
ところが沖まで流され、バランスが崩れ、舟がひっくり返り、危うく溺れ死にそうになったことがありました。
その時、父がおぼれている自分を助けに来てくれました。
かなり沖合いまで流されてしまっていました。青緑の海の深さに、途轍もなく不安になりました。
父から、海の神様にお供えした舟に乗ったから、罰が当ったのではという類の話を聞き、そのとき私の中で初めて、捉えどころのない人間の人智では計り知れない、大きな現象や自然に対する畏敬の念が生じたのでした。