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【連載】しぶとく生きていますか?⑧

 次の日の朝早く、茂三は自転車を転がせ、庶野に向かった。
 口笛を吹きながら茂三は自転車をこいでいた。
 なだらかな坂の登り切ったところに見晴台がある。そこで一休みをした。
 浜風が包帯を巻いた茂三の頬を撫でた。
 目黒方面に目をやると、フンコツの隧道が見えた。その先の海岸線が霞んで右に伸びていた。いつもと変わらぬ景色だ。茂三は小さい時から、ここからの眺めを好んだ。自分もこの自然の雄大さのように、しぶとく生きていこうと思うのだった。
 
 庶野にいる鉄砲撃ちの吉阪と今野の二人とマタギ七人、それに警察官で、手負いヒグマ捜索チームが結成された。
 連日にわたり、ヒグマの捜索が続けられた。
 庶野の山からフンコツ一帯にかけて大捜索が続けられた。
 警察官の何人かは大正四年十二月の三毛別羆事件を思い出していた。妊娠している女性をクマは襲う。その現場は、悲惨な状況だったという。
 捜索の甲斐もなく、その手負いヒグマの姿は発見できなかった。

 その年の六月のある日、茂三に向かって妻の淑子が、
「父さん、あのヒグマ、どこさいったべ」と朝飯を食べながら言ったものだ。
「もう、日高山脈の奥地に入り込んだか、死んでしまったか」と茂三は漬物を頬張りながら言った。茂三の左頬は、すっかり治癒していた。ただ、クマの掻き傷の痕が残っていた。

 大勢の人がクマの捜索に携わり、手負いヒグマを探し回った。その模様は各新聞の道内版にも大きく取り上げられた。
 

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