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【連載小説】リセット 12(完)

 芳樹は小一時間ほどその錦華公園のベンチに座っていた。
 そして、徐に立ち上がり、山の上ホテルを右手に見て坂を登った。

 大学の構内を抜け、御茶ノ水駅に向かった。
 御茶ノ水駅の改札を通り、新宿方面の階段を降りホームへ向かう。
 たった今電車が来たのだろうか、大勢の人が階段を登り、改札口へ流れていく。

 芳樹は、その人混みの中に別れた美代の姿を見つけた。
 彼女はうつむき加減に改札に向かっていた。混雑の中での出来事だった。
 芳樹には気が付いていない様子であった。
 彼女の身なりは、花柄のワンピースに帽子を被り、清楚な感じであった。
 すでに別れた女性である。
 芳樹は一瞬であったが彼女の顔を窺った。過去の暗さは消えていた。
 その姿に芳樹は安堵した。

 思い出と闘っても勝てない。
 彼女が前向きに生きてくれるだけでいいのだ。
 もう終ったんだ。自分はすでに新たな生き方を歩もうとしている。

 芳樹は階段を降り、ホームの中ほどで、両腕を大きく上に挙げ、背伸びをした。そして両足の親指にぐいと力を入れた。

 ほどなく、三鷹行きの普通電車が、スーと心地よい風と共にホームに滑り込んできた。
      了


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