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短篇小説(連載)星堕ちる④
次の日の朝、また階下から大きな声がかかった。朝食の知らせだった。
食事を済ませた次郎は、今日も泊ることをその仲居に伝え、部屋に戻った。外の景色を見ていると眠くなった。少しまどろんだつもりが九時をまわっていた。
寝不足の次郎は、父の情報を得るため、けだるい体を引きずり修善寺界隈を廻った。
まず役場に行こうと決めた。何か情報を得られるかもしれない。
「すみません。おどうを捜しているのですが」と次郎は役場の受付の女性に聞いた。
「おどう? お父さんの事?」
「はい、父のことです。名前は福田吉蔵といいます」
「戸籍係のところに行ってください」と、その女性は奥を指した。
次郎は戸籍係のテーブルの前に立った。人のよさそうな中年女性が、微笑みながら次郎に聞いた。
「どうしましたか?」
「父の居場所を探しています」
「名前は?」
次郎は、父の名前を告げ、調べてもらった。暫くしてその役場の女性が、
「ここ修善寺にはいませんね。いるとしても住民登録していないかもしれません」
「その登録ってなんですか?」と次郎は聞いた。すると、その女性が、
「住民登録とは、確かにどこそこに住んでいますという届け出をするものです」と親切に次郎に教えてくれた。
次郎は、修善寺に父が登録されていないという言葉を聞き、落胆した。しかし、諦めるわけにはいかない。
役場はダメだった。重い足取りでそこを後にした。
三十分ほど歩いていると、シイタケやらワサビ漬けなどを置いてある乾物屋が見えてきた。そこの女性店員は、丁寧に相談に乗ってくれたが、栃木弁を話す人には会ったこともない、とのことだった。
その後、農家やら商店を訪ね歩いたが、手掛かりはつかめなかった。
昼になり、その日の朝、旅館で作ってくれた握り飯を、修善寺川の土手で食べた。
夕方、次郎は疲れた身体を引きずりながら旅館に戻った。風呂に浸かり晩飯を食べ、部屋で横になりながら明日からどうしようかと思案した。絶対諦めることは出来ない。何としても父を探し出してみせると、次郎は拳を強く握りしめた。
それから三日間、収穫のない日々を過ごし、旅館に戻った次郎に、父の吉蔵らしい人が、ある農家で働いているようだとの情報が得られたのである。
五月四日の夕方、次郎が旅館に戻ると、旅館の主人が次郎を呼び、
「福田君、君、お父さんを探しているらしいな。その人が君のお父さんかどうか分らないが、本立野という集落の農家の土屋さんの処に通いで働いている人がいるらしい。明日にでも案内しよう」と言ってくれたのであった。
仲居から次郎のことを聞いた主人が、方々にあたってくれていたのだった。
次郎は驚きと同時に、夢のような気持ちだった。
「え? ありがとうございます。ぜひお願いします」
次郎は旅館の主人に深く頭を下げ、礼を言った。
次郎の胸は高鳴った。(やっと、おどうに会えるかもしれない)
小躍りした。嬉しかった。
その夜は布団に入ってからもなかなか寝付けなかった。