大河ドラマ史上、最もショッキングだった作品
大河ドラマというのは
NHKが
日本の歴史上の
有名人、重要人物を
選び(大抵は1人)、
その人の生涯をドラマとして
1年間かけて
描いていくもので
毎週日曜日
午後8時からの
1時間枠
新春早々の1月から
年末にあたる12月下旬まで
ガッツリ1年かけて
放送される。
群像劇になるケースもあるが、
番組タイトルが
「秀吉」だと
豊臣秀吉の生涯を
1年間かけてやるわけで
それはそれは大掛かりな話である。
やはり主人公が
平将門
織田信長
西郷隆盛
坂本龍馬
真田幸村
とかだったりすると、
最期の悲惨な死を
すでに
知っているこちらとしては
観るのをためらってしまうのだが
そんな中、今回紹介する作品は
「大河ドラマで
最もショッキングな
ラストだった作品」
として、
「山河燃ゆ」を紹介する。
色々と特殊な作品で
・登場人物のほとんど全員が架空
(ただし、モデルになった人物たち
は特定されている)
・主人公は渡米した日系人
・大河ドラマとしては
初めて太平洋戦争を真っ正面から
描いた作品
・諸般の事情でDVD化はされているが
放送から40年が経つ現在に至るまで
再放送は行われていないし、
おそらく再放送はされないであろう
という作品
である。
どこが、ショッキングなのか?
というと、この作品
最終回ラストで
主人公が拳銃自殺するのだ。
織田信長は
本能寺の変で
殺されちゃうし
坂本龍馬も
殺されちゃうラストになるから
こういった人を
主人公にして
1年間ドラマを観るのは
シンドいけど
さすがに主人公が
拳銃自殺するラストは
ひどいよなぁ、と。
「山河燃ゆ」が製作され始めた
頃のNHKは
ノリにノッていた。
大河ドラマの方は
「徳川家康」だった。
徳川家康の生涯を
1年かけてやる、というのは
NHKにとっては
一大プロジェクトであり
大博打であったであろう。
これを成功させた。
朝のテレビ小説、いわゆる朝ドラは
4月から翌年3月まで、という
長尺で「おしん」を大ヒットさせている。
「ドラマをやらせたら、もう
NHKには勝てない」と
民放局がため息をつくしかない
圧倒的な強さの時期であった。
大河ドラマ「徳川家康」のヒットで
かなり強気になっていたのだろう、
番組プロデューサーが
「あの戦争(=太平洋戦争)を
経験した世代の人たちが
存命中のうちに
あの戦争について描きたい」
と発言していたことからも
わかるように
「山河燃ゆ」は
大河ドラマとしては初めて
現代史、それも太平洋戦争を
えがく事に挑戦した。
原作は
山崎豊子の「2つの祖国」
主人公にあたる
天羽賢治 及び主要な登場人物達は
架空の人物ということに
なっているが
執筆にあたり
山崎豊子は膨大な数の
日系人に取材し、
話をきいている。
天羽賢治 のモデルとされて
いるのは日系人の伊丹明
作品中の中で描かれている
天羽の経歴とは
かなり一致しているし
拳銃自殺して生涯を閉じている点も
一致する。
物語は
鹿児島から渡米し
ロサンゼルスの
リトル・トーキョーで
クリーニング店を営む
父(三船敏郎!が演じた!)
と、その息子
天羽賢治を
松本幸四郎(松たか子のお父さん!)
賢治の弟を
西田敏行!
そして彼らをとりまく
日系人コミュニティの人々が
激動の時代に翻弄されていく
というお話で
ひたすら
キツい、重い、暗い。
それと登場人物たちが
あっけないほど簡単に
死んでいくのも
小学校低学年の
私には辛かった。
松本幸四郎(松たか子のお父さん)
演じる天羽賢治は
根源的な問題として
「自分はアメリカ人なのか?
日本人なのか?」という
アイデンティティについて
始終、悩んでいる。
これはアメリカ人として
アメリカ軍に所属し
日本を敵として戦うようになってからも
ずっと続く。
山崎豊子がメインタイトルを
「2つの祖国」としたのも
恐らくこれが原因であろう。
物語後半、賢治は
「日系人」という立場について
「自分がアメリカと日本の架け橋に
なることで事態を収拾できるかも?」
という考えに活路を見出し
奔走するのだが、、、
というお話である。
賢治の弟
天羽 忠(西田敏行が演じた)
は、アメリカ生まれ、アメリカ育ち
だが「自分は日本人だ」という考えに
傾倒している
時代と運命に翻弄され
太平洋戦争が始まると
「日本人」として
「日本軍」に入る。
フィリピンのジャングルで
米軍兵として従事している
兄・賢治と遭遇し
兄を本気で殺そうとする。
その最中に賢治が
拳銃を誤射してしまい
忠は瀕死の重傷を負い
命は助かるがその後
兄・賢治を
憎悪するようになる。
この出来事を
賢治は非常に後悔しており
自責の念に苛まれていたし、
この出来事が後の
自殺に至る重要な要因ともなる。
こうやって書き出してみても
すごく落ち込む話だ。
主人公は
アメリカ軍として
東京裁判にも従事する。
主な仕事は通訳。
現代の我々ならば
わかる話だが
東京裁判というのは
「戦勝国」が
「敗戦国」を
「裁く」ため
に行われたモノであり
事実上のリンチじゃねーか、
という人たちもいる。
実際のところ
戦争犯罪者として
東条英機、広田弘毅らが
死刑判決を受け
死刑は執行されている。
アメリカ側、として
東京裁判に加担した
天羽賢治は
判決文をどんな気持ちで
聴いたであろうか?
ここらへん辺りから
賢治が「あー自殺するんだろうな」
っていうのは
薄々感じていた。
日本にいた頃
東京、銀座にある
よく通っていた喫茶店
すごく繁盛してたんだけども
東京大空襲で店は炎上、焼失
避難することを良しとしなかった
柳生博演じる店主は焼死。
日系人コミュニティ仲間で
自分はアメリカ人だ、と公言して
はばからない生粋のリアリスト
沢田研二、演じる
チャーリーは割と上手いこと
立ち回っており、生き残るか?
と思いきや、暴漢に刺されて
あっさり死亡。
同じく日系人コミュニティ仲間で
賢治とは幼馴染の女性
(実は賢治に恋心を抱いていた)の
梛子(島田陽子が演じた)
は戦争が悪化するにつれ
戦時交換船を使い
父親と一緒に日本へ帰り
日本で暮らしていたが
8月6日 広島で被爆
父親は死亡。
梛子は間一髪の所で
地下道に避難しており
助かった、かに思われたが
その後、白血病を発症、死亡。
亡くなる間際
「私は、、、日本の敵、なのでしょうか?」
というセリフが切ない。
この物語のラスト
天羽賢治は
誰も居なくなった
東京裁判の法廷に独り、立ち
長い長い独白をします。
自分自身を「裁く」ために。
「大切な人たちは、皆、死にました」
「フィリピンでは実の弟を殺しかけました」
etc.
長い長い、罪の告白です。
「結局、私は何もできなかった」
「私は私の手で、私を裁こうと思います」
で、拳銃自殺。
1年かけて、ずーっと
見てきたのに
このラストは
救いがなさすぎたし
何より小学校低学年が
視聴して受け止めるには
話が重すぎたなぁ。
ショックだった。
前年の「徳川家康」の
大成功を受けて
の、ではあったが
視聴率的には
失敗作の烙印を押されても
仕方ない成績であった。
この作品は色々とトラブルにも
見舞われた。
まずタイトル、
「2つの祖国」は
アメリカ在住の日系人コミュニティから
NHKに
猛烈な抗議がきた。
現代の日系人の人たちからすれば
自分たちのアイデンティティについて
「祖国は?」ときかれたら
「アメリカ合衆国」と
こたえるであろう。
「自分たちのルーツに
日本という国があるのは
その通りだけども
自分たちの祖国はアメリカだ」
というのが日系人の方たちの
常識なわけで
日系人の人には
祖国が2つある
というこのタイトルは
日系人からしたら
「不遜」であろう。
というわけで
タイトルは
「山河燃ゆ」へと
変更された。
また、戦時中の
日系人の扱われ方が
事実とは違う
という抗議も
日系人コミュニティから
殺到した
太平洋戦争中に
アメリカが
日系人を差別的に扱ったかのような
描写が
事実とは異なる、と。
40年前の時点でも
NHKや日本の民放番組とかは
アメリカでも放送されてたんだけども
「山河燃ゆ」だけは
放送開始から驚くほどの短期間で
放送そのものが中止となった。
現在、日本国内では
NHKオンデマンド等の
動画配信サービスで
この作品を視聴できるし
ちょっと高いけど全放送ぶんの
DVDも販売されている。
ラストがショッキングすぎるけど
個人的には
もっと評価されるべき
作品だと思う。
40年たって
49歳になった
今なら、もっとこの作品に
向き合えれると思う。
それと、最期にこれだけは
40年前の時点で
この作品に出てる
西田敏行をみて
「この俳優さん、マジですごい!」
と子ども心
ながら
思った。