イカサマ #2
出会い
助蔵との出会いは半年ほどさかのぼる。
この日ふくは、隅田川にかかる橋の袂で武家屋敷を眺めていた。ここの中間部屋で賭場が開かれていることは誰もが知っており、見張っていたといってもいい。
屋敷から出てくる者を観察していると、裸同然に尻切れ半纏を引っかけた中年男が逃げるように去っていった。なるほどあれが身ぐるみ剝がされるということかと目で追っていたところ、ひとりの若い男に目が止まった。
彼を見た瞬間、頭の中でなにかが弾けた。
引き寄せられるように足が動いた。
「卒爾ながら」
間近で見た男の顔は、切れ長の目にまっすぐ鼻筋が通り、薄い唇は紅を引いたように赤かった。
「私は然る商家の娘、ふくと申します。勝負してもらえませんか」
これではまるで仇討ちの口上ではないかと、ふくは焦った。取り繕うように手に持っていた守り袋から賽子を取り出そうとして、すべり落とした。
男はそれをゆっくりと拾いあげて、微かに笑った。
「驚いた。勝負ってこれのことか……」
「そこのお屋敷から出てくるのを見ておりました。身ぐるみ剥がされた者もいるなかで、ずいぶん悠々としていらっしゃった。そのような方にお頼みしたいことがあります」
畳みかけるように告げた。
「頼み、とは?」
「私が勝ったならば、賭場へ連れていってほしいのです。女一人では不安なので」
はじめて男が眉をひそめた。
「とりあえず、これは仕舞ってくれ。こんなところで博打の真似事をしたらどうなるか」
ふくの手に賽子が返され、言われたとおり守り袋に戻した。
「どうしたものか……」
男は考える顔つきをした。この時のことを後に聞けば、狐か狸に化かされている気分だったと助蔵は言う。狐でも狸でも女でも取り憑かれては困る。さて、どうしたものかと。
「俺に壺は振れん。が、この近くの裏長屋に元壺振りの知り合いがいる。その爺さんに勝ったら、考えよう」
物の怪には物の怪を——
「本当ですか?」
前のめりになるふくを無視して男は大股で歩きだした。その背中はついて来ないならそれでいいと語っており、ふくは足を鳴らしてそのあとを追った。