春
青い空。
白い雲。
外はよく晴れていた。
予定もなく、ただ部屋にいた。
午前中にお風呂に浸かり、お昼ごはんはウーバーイーツで贅沢した。
お出かけでもしようか、と思ったけれど、ただなんとなく、ずっと部屋にいた。
お天気がいい。
ひなたぼっこに出よう。
そう思ったのは、さっきだった。
そしてタバコを持って外に出た。
陽射しが柔らかくわたしを包んだ。
そのぬくもりに、作業所でのいちばんの仲良しだった、しみティーを思った。
しみティーは、ぷくぷくと太っている。
毎朝ウエストをしぼる運動をしているわたしがバカみたいに思えてくるほど、ぷくぷくしている。
そのぷくぷくとした体で、
「ハグはいいの?」
と言って、よくわたしに抱きついてくる。
しみティーのぬくもりは、今日の陽射しのぬくもりに似ている。
幸せなぬくもり。
青い空。
白い雲。
空はよく晴れていた。
風はほんの少しだけあった。
けれど寒くはなかった。
日光を浴びると幸せホルモンが出る。
わたしはその説を信じている。
しみティーのぬくもりに似た、陽射しのぬくもりに、いつまでも抱かれていたかった。
しゃがんでいた体勢から、体育座りの体勢になり、わたしはくつろいだ。
小学生軍団が通りかかり、あわててタバコの火を消した。
小学生軍団のひとりが、
「あっ!タバコ吸ってる!」
と言った。
ごめんなさい、と小声でつぶやき、タバコをポケットにしまった。
そして、少しして、マンションの5階の部屋に、階段で上がってきた。
ひなたぼっこに元気をもらった。
外に出ることで、5階の階段を昇り降りしたことも、ちょっぴり運動になった。
外に出て良かったな、と思った。
しみティーとは、もう会えなくなる。
わたしは、作業所を退所することが決まっている。
これからどんどん暖かくなる。
ひなたぼっこに出る日も増えていくだろう。
しみティーのことを、何度も思い出すだろう。
そしていつか、しみティーのことを、あんまり思い出さなくなり、いつかしみティーのことを、忘れていくのだろうか。
ときは春。
わたしは人生の再スタートを切る。
慣れない環境で戸惑いながら、ときに笑い、ときに怒り、ときに落ち込みながら、新しい生活にチャレンジしていく。
友達ができるかも知れない。
わたしは人見知りだから、なかなかできないかも知れないけれど。
チャレンジあるのみ。
チャレンジすることに意義あり。
頑張っていこうと思う。
そして、そんなわたしを支えてくれるのは、今まで通ってきた作業所のみんなの思い出なんだ。
そう思う。