小さな灯火を
私はバス停の前のベンチに座っていた。
「寒い…」
こんな日に限って、薄着をしてきた自分自身を恨みたい。
バスが来るまで、後、三十分もある。近くに店もない。
どうしよう…と途方に暮れていると、ふと、カイロが目の前に現れた。
驚いて顔をあげる。
そこにはカイロを差し出す青年の姿があった。
「落とし物です」
私はカイロなど元々持っていなかったはずだ。
「えっ、私のじゃ…」
ありません、と言おうとしたが、青年の言葉に遮られた。
「落とし物です‼︎」
あくまでも、そう言い張っている。きっとこれが彼なりの優しさなのだろうと思い、遠慮なく、それを受け取ることにした。
「ありがとう」
青年は目を逸らす。
不器用な青年の優しさに触れ、身も心も少しだけ暖かくなった。
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