中途社員の能力不足と解雇②
デンタルシステムズ事件(大阪地判令和4年1月28日令和2年(ワ)第11236号)
(事案の内容)
労働者Xが解雇された時点において、勤務成績又は業務能率に改善の兆しが見え始めていたことから、就業規則上の解雇事由(勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みが無く、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき)は認められないと判断された事案
(経緯)
1 労働者X(以下「X」という。)は、令和元年12月27日、コンピュータシステムの開発・販売及び輸出入業務、ソフトウェア製品の開発・販売及び輸出入業務等を目的とするY会社(以下「Y社」という。)に中途採用され、営業担当職員として勤務した。
2 Y社は、Xに対し、令和2年7月31日、「貴殿に対し営業活動の指導を行ったにもかかわらず、行動の変化が見られなかったため当社就業規則第47条(解雇)第1項〔1〕に基づき2020年7月31をもって解雇いたします」(抜粋)と記載された解雇通知書を交付し、Xを解雇した。
なお、就業規則第47条(解雇)第1項〔1〕には、「勤務成績 又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みが無く、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき」と定められている。
Xは、Y社からの解雇が無効であるとして訴訟を提起した。
【裁判所の判断】
(結論)
本件解雇がされた令和2年7月末頃には、Xの勤務成績又は業務能率には改善の兆しが見え始めていたのであって、Xの勤務成績又は業務能率が著しく不良である状況が将来的にも継続する可能性が高かったものと認めることができず、解雇は客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、解雇権を濫用したものとして無効となる。
(理由)
Xは、Y社に営業担当職員として採用され、令和2年2月からY社における勤務を開始したが、なかなか顧客からの受注を取り付けることができず、解雇されるまでの7月31日までの受注件数は3件にとどまり、Y社のノルマを下回るものであった。
しかし、Y社が取り扱っていた商品は、歯科医院で使用するレセプト作成補助用のソフトウェアであり、その性質上、顧客側のニーズは限定的で、Y社の営業担当職員が顧客に対して営業をかけても、容易く契約を受注することができるものではなかった。
加えて、新型コロナ感染症拡大の影響により、Y社にて対面の商談が禁止され、Xは試用期間中又は使用期間が終了して間がなく、Y社での業務経験も少なかったから、Xが的確な営業活動を行うことは困難であった。
このような環境に置かれつつも、Xは、7月に合計3件の契約の受注に成功し、上司C(以下「C」という。)がXを労うとともに奮起を促した。また、Xは、業務に関するCとのコミュニケーションを密に行い、Cのアドバイスに従い必要な業務に従事し、Cから当日の業務内容と翌日の業務予定の報告を求められれば速やかに応じ、受注件数を増やすための対応策を尋ねられれば的確に回答し、CもXの回答内容を肯定的に捉えていた。
以上によれば、本件解雇がされた令和2年7月末頃には、Xの勤務成績又は業務能率には改善の兆しが見え始めていたのであって、Xの勤務成績又は業務能率が著しく不良である状況が将来的にも継続する可能性が高かったものと認めることができない。Cとのコミュニケーションの取り方から見て取れるXの勤務態度等にも鑑みれば、Xの勤務成績又は業務能率につき、向上の見込みがなかったとはいえない。
よって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、解雇権を濫用したものとして無効となる(労働契約法16条)。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?