~上司の嫌がらせ行為と会社の職場環境配慮義務~ゆうちょ銀行事件(水戸地判令和5年4月14日令和2年(ワ)第242号)
(事案の内容)
上司らの労働者Xに対する嫌がらせ行為が、会社Yの職場環境配慮義務違反になると判断された事案。
【裁判所の判断】
1 上司による退職を示唆する行為について
(1)会社Yの課長代理の地位にあったAは、部下に当たる労働者Xに対し、退職届を書いたとの旨尋ねる発言をし、その後、A自身の退職届を、労働者Xに渡して、部署長へ提出するように述べた。
このAの労働者Xに対する各言動は、労働者Xに対して、その上司であったAにおいて、労働者Xを退職するよう示唆し、さらに、労働者Xが自ら会社Yを退職するように精神的に圧力をかける行為と見られてしかるべきものであり、客観的に見て、社会通念に照らし、度を過ぎた言動というべきである。
(2)Aは、自身の退職届を渡したことは、自身の仕事の向き合い方を示す趣旨であり、労働者Xを退職に追い込む意図はなかった等の証言を行った。
しかし、自身の退職届を部下に見せることが、自身の仕事の向き合い方を示すことや悩みを相談する意味の行為であったというのは、通常考え難いことであり、不自然かつ不合理であるため、採用できない。
(3)Aは、労働者Xが配属されていた職場における課長代理の地位にあり、労働者Xの上司として、労働者Xが精神的に安全な環境で執務できるその職場環境を整備するべき立場にあったのであるから、Aの労働者Xに対する各言動は、直接、会社Yにおいて、労働者Xがその職場において精神的な健康の安全を確保しつつ労働することができるよう配慮するべき義務を怠ったものと解される。
したがって、会社Yには、労働者Xに対する職場環境配慮義務不履行が認められる。
2 上司による頭髪をいじる行為について
(1)会社Yの係長として労働者Xの上司であったBは、合計8回にわたり、職場において労働者Xの頭髪に整髪料をつけて、労働者Xの髪をいじってその髪型を変えるなどして、そのまま就労させた。
(2)これに対し、Bは、労働者Xが日常的に髪がぼさぼさであったり、ふけがたまっていたりしていて、女性従業員から近寄るのが嫌だなどと言われていたため、外部業務に行く際、身だしなみを整えるために、整髪料をつけたとの証言を行った。
(3)しかし、労働者Xの髪や衣服などにふけが付着するなどして周囲に不快感を与える状況であったのであれば、上司であるBとしては、まずは労働者Xにその旨指摘して、ふけを払うなどの措置を講じるよう促すのが自然であるところ、Bがそうすることはせず、労働者Xにふけの存在やこれを改善するような指摘や指導をすることなく、ふけの除去に効果があるとは思われない整髪料を渡してその使い方を教えただけというのは、事の流れとして不自然、不合理であり、採用できない。
(4)以上によれば、Bは、多数回にわたり、労働者Bの意に反して、その髪に整髪料をつけて直接いじって髪型を変えるなどして、職場において就労させることを繰り返していたことが認められる。
そして、Bの上記行為が労働者Xに屈辱感を与え、その人格的利益を侵害するものであることは明らかである。
さらに、これが労働者Xが精神的に安全な環境で執務できるその職場環境の整備に配慮すべき立場にあった労働者Xの上司によって行われたものであり、加えて、労働者Xの髪型の変化は、労働者Xの他の上司においても、容易にこれを認識できたものと推認され、同上司らにおいても、Bの上記行為を制止する措置をとってしかるべきであったといえる。
したがって、Bの上記行為やこれを看過した周囲の上司らの行為は、会社Yにおいて、労働者Xに対する職場環境配慮義務を怠ったものと解されるものであって、会社Yには、職場環境配慮義務違反の債務不履行が認められる。
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