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ポイントの私的利用と普通解雇の有効性

中央建物事件(大阪地判令和5年10月19日令和3年(ワ)第11390号)

ポイントの私的利用、その他不適切行為を理由とする解雇が有効と判断された事案

(事案の概要)
労働者(以下「X」という。)は、平成25年10月、会社(以下「Y社」という。)との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、総務事務に従事した。

①Xが総務部に勤務していた平成30年4月から、Xの上司Bの指示で酒類販売店にてウィスキーを購入することになり、個人名義でしか購入することができなかったため、X名義のアカウントを作成し購入していた。
なお、購入の際は、主に上司BがXに対して銘柄や本数を伝え、Y社又は関連会社名義の銀行口座から振り込みにて支払われ、Xが当該事務を担当していた。購入時に発生するポイントは、X名義のアカウントに付与されるようになっていた。
 上司Bは、平成30年6月頃、ウィスキーの購入によりどれぐらいポイントが貯まるかを尋ね、ポイントが貯まっていれば次回の購入時にすべて使うように指示した。
 Xは、平成30年4月から令和3年1月までの間、ウィスキーの購入により、合計22万8252円相当額のポイントを取得していた。
 しかし、Xは、平成31年4月28日以降、ポイントをウィスキーの購入に使用せずに、電子レンジなど私用品の購入のために、令和3年6月26日までに合計20万8006円分を使用していた。
 
②Xは、令和3年3月8日、総務部から営業部に異動することになり、酒類の購入業務を後任者に引き継ぐ際に、後任者からポイントが貯められているアカウントのパスワードを尋ねられたが、忘れた旨を述べ、回答しなかった。
 また、Xは、自己所有のUSBメモリーに、Xが総務部で職務上使用していたデータの一部をコピーし、異動先の営業部でも保管していた。
 
③Xは、令和3年11月2日、営業部の上司Cに対し、Xが管理していた裁判や調停手続の進行状況を記載していた表計算ソフトのデータを添付し、「今後はCさん保管・更新お願いします。」と記載した電子メールを送信した。なお、上司Cは、当該表計算ソフトを使用することはできなかった。
 
Y社は、Xに対し、令和3年11月4日、解雇の意思表示をし、同年12月10日に解雇予告手当として、27万円を支払った。

【裁判所の判断】
(結論)
Y社によるXの解雇は、労働契約法第16条に違反するものでなく有効である

(理由) 
1 解雇の客観的・合理的理由の有無について
 Xは、酒類購入業務によって貯まったポイントを私的に費消しているところ、その使途が美容用品や家電製品等の多岐にわたることに照らすと、当該ポイントには現金に類似する通用性・利便性があったと考えられる。
 Xによるポイント費消は、Y社に対し、Xが業務上委ねられていた現預金を私的に利用することと同等の経済的損害を与えるものであり、信頼関係の破壊をもたらすものであったといわざるを得ない。
 Xのポイント費消の性質及び経緯、費消額及び用途並びに回数及び期間に照らすと、Xのポイント費消は、Y社従業員としての職務上の義務に反するものであり、解雇についての客観的に合理的な理由に当たる。
 
2 解雇の社会的相当性について
(1) ポイント費消について
  Xによるポイント費消額は20万円を超え、単に上司Bの指示に反してポイントを貯めただけでなく、私的に費消していること、また酒類購入業務を引き継ぐ者として、ポイントの蓄積状況や使用状況について、上司又は後任者に対して説明をすべき立場にあったにもかかわらず、パスワードを忘れた旨を答えており、本来行うべき説明をしなかった
 
(2) Xの勤務状況について
  Xは、解雇時に、上司Cが表計算ソフトを使用できないことを知りながら、以後、自身が管理しない意思を示しており、上司Cの担当していた法務に関係する業務への従事について消極的な態度を示していた。
 
以上のXによるポイント費消の性質・内容及び経過並びにXの勤務状況その他の事情を踏まえても、解雇が社会的相当性を欠くということもできない。
 
【参考条文】
労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

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