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Podcast#7 スマート・オコメ・チェーンとは -前編 -

先日、Podcast「東大生の米談義」#7を配信しました。
#7のテーマは 「スマート・オコメ・チェーンとは - 前編 -」でした。


一言名言

一日生きることは、一歩進むことでありたい。

湯川秀樹著作集-6 読書と思索 湯川 秀樹/著  岩波書店 1989.4

 日本人初のノーベル賞受賞者、湯川秀樹さんの言葉である。

 1929年に京都帝国大学の研究室に入り、1949年の「中間子理論」でのノーベル物理学賞受賞に至るまで20年。長い年月をかけて偉業を達成した彼の言葉だからこそ、確かな重みを感じる。

 今日この日の地球環境、政治や経済、社会構造を顧みて、明日が今日より確実に良くなるという確信を持てる人間はどれほどいるだろうか。

 一方で、それらかつてない規模の課題の数々に身命を賭し取り組む人間がどれほど多いか、それがどれほど心強いかにも気づくことだろう。産学官民各地で最前線を走る方々の不断の営みを知れば、今日を懸命に生きた先の変化を信じることができるはずだ。

 今回のテーマ「スマート・オコメ・チェーン」然り、1日に1歩、進み続けることで何かは変わっていく。来週で第10回を迎えるPodcast「東大生の米談義」、そしてRICE DAOも、常に1歩踏み出す勇気と、歩みを止めない情熱を持ち続けたい。


スマート・オコメ・チェーンとは

簡単に言うと

 多くの人にとって聞き馴染みのない言葉である「スマート・オコメ・チェーン」だが、10年後にはきっと身の回りのありふれた「当たり前」の一つになっているだろう。

 はじめに、スマート・オコメ・チェーンを知る前段として「スマートフードチェーン」について整理しておきたい。

 スマートフードチェーンとは、”生産から消費に至るまでの全ての情報を連携し、生産の高度化や販売における付加価値向上、流通最適化等による生産者の所得向上を可能とする基盤”である。
簡単に言ってしまえば「その食料品がいつ、どこで、だれによって作られたのか」を明らかにする技術で、果ては「生産者が今より儲かる」ようにする仕組みである。

 消費者にとっては食品の出所や生産過程を正確に知ることで安全性の向上と環境への配慮等が可能になり、他方生産者にとっては高付加価値商品の裏付けを得られる他、AIやIoTを駆使した需要予測・品質管理の高度化等、営農改善を通じて収入増加に繋がる。

 食品業界全体を最適化し、より透明で効率的な食のエコシステムを実現することで、生産者と消費者の双方に利益をもたらす夢の取り組みとされる。

 そしてこのスマートフードチェーンを、とりわけお米の分野で構築しようというのがスマート・オコメ・チェーンなる取り組みである。

農林水産省 - スマートフードチェーンの取組とスマート・オコメ・チェーンとの連携について

 Podcast公開日からちょうど3年前の2021年6月、農林水産省を主体に「スマート・オコメ・チェーンコンソーシアム」が設立された。

 幹事には東大近くにも店を構える大手おむすびチェーン「おむすび権兵衛」代表などお米業界の権威が集い、会員にはクボタ、ヤンマー等の農機会社をはじめ、e-kakashiのソフトバンク、セブンイレブンのおにぎりを監修する京都の八代目儀兵衛などが名を連ねる。「#5お米業界の全体像」で取り上げた会社を概ね確認出来たことから、ひとまずその規模と本気度が感じられるだろう。


思うこと

 先に取り上げたスマートフードチェーンに同じくして、スマートオコメチェーンの大事なテーマは「生産から消費までのデータを一元管理すること」と、「それらデータが販売における付加価値向上、生産者の収入増加に繋がること」である。

 しかし、コンソーシアムの中では「消費者に精緻なデータを見せても理解されない。」「消費者にはデータの数値ではなく、わかりやすく示すことが重要。」といった、「生産から消費まで」に懐疑的な声も上がっている。

 一消費者として、お米業界に関わる前は正直値段しか見ていなかったか、値段も見ずにエンド陳列の商品をなんとなく買っていた。

 令和5年5月時点でのコンソーシアム資料では、生産者の情報や生産地の情報、そのお米にあったレシピの提案などが消費者に示す情報の例とされるが、そうした情報を消費者がどこまで求めているかは甚だ疑問である。

スマート・オコメ・チェーンの活動について

 スタートアップや新規事業では「誰のどんな課題を解決しているか」が何より重視される。現状のスマート・オコメ・チェーンに関して苦言を呈すと、記載されている情報群は、消費者の課題や日々の悩みを解決すると言うより生産者の頑張りを押し付けている形に近いようにも見える。

 当然、生産者の方の苦労や拘りが大変に素敵なものであり、それが何より美味しさに繋がっていることは一般の方よりは理解しているつもりであるし、こと自分に関して言えばそれが購買決定の要因になることは間違いない。ただ、大学1年生の頃の自分に聞いてみた時、お米業界に入らず投資銀行で働いていた自分に聞いてみた時、間違いなくそれでは買わない。そしてこのスマート・オコメ・チェーンにより全ての農家さんの生産情報が可視化された時、それこそ農家さんの発信はコモディティ化され、ますます差別化は困難になるだろう。


取り組む背景を改めて

 こうしてある意味「消費者を置き去り」に進むスマート・オコメ・チェーンについて改めて、課題意識や設立背景を整理したい。

 この取り組みの最終目標は生産者の所得向上である。稼げない農業に未来がないことは前回記事より明らかで、デジタル化の潮流にも適した「稼げる農業」を実現する取り組みとして白羽の矢が立ったのがスマート・オコメ・チェーンだろう。

 ただ留意すべきは、データの一元管理やトレーサビリティの本質はあくまで生産・流通の最適化であるということ。消費まで、というのはあくまでPOSデータの管理・分析に焦点を当てた話であり、断じて日本の全ての農家さんのお米図鑑を作って消費者に配ることではないはずだ。

 規格設計・標準化によるデータの一元管理が解消するのは「データ分断による損失」であり、それにより流通の最適化や、生産の効率化が進む。農水省を中心にこれだけ大規模に時間とお金を使う意味、生み出せる価値はそこにあるはずだ。

 コンソーシアム第3回講演のやさいバス株式会社は、流通業者によって管理コードがころころ変わることの煩雑さを取り上げていた。バスを用いた野菜の共同配送を行う”シェアリングエコノミー”に取り組む同社は、多様なステークホルダーに対応してコードを個別管理する手間に大きな課題意識を抱えていた。政府による最小限の規格設定・標準化はこれらの課題を解決し、取引コストの低減、すなわち業界全体の収益構造の改善を通じて生産者の取引価格や収益向上に直結するだろう。

データのダム化と穀粒判別器のフル活用

 また、コンソーシアム第2回講演の株式会社ヤマザキライスは、生産者と精米業者間の「データのダム化」を取り上げていた。現在、生産からのデータ連携は穀粒判別器までとなっており、一度書面による農産物検査を挟み包装後は新しいデータの流れが生まれているため、生産者は生産したお米のフィードバックを得ることができない。精米の歩留まりや検査結果、食味データのフィードバックと営農の改善提案が期待されている。

 加えてスマート農業の進歩は目覚ましく、例えばセンサー技術やモニタリング技術の向上によってスマホ・タブレット等の端末上での営農も現実となってきている。当然データにより管理されるこれらの農業形態により更に蓄積されていく生産情報との連携により、無駄のない営農・高品質化による効率化を通じて収益の向上にも繋がろう。

 最後に、これらデータの一元管理と信頼性向上はお米の輸出においても大いに役立つ。輸出では見えない相手との取引が求められ、国・業界を超えた透明性確保が不可欠となる。そこで富士通やSBIが取り組むのがブロックチェーンによるトレーサビリティ技術の確立である。

世界で動き出すブロックチェーンを活用したトレーサビリティ

 電子署名と耐改ざん性のあるデータ構造を利用し、 データの変更履歴をネットワーク上で共有することで、取引相手の信頼度を飛び越えてデータを信頼することができ、貿易コストを削減取引時間の大幅短縮を実現できる。

 以上から、「スマート・オコメ・チェーン、すなわちデータドリブンな所得向上策としては、生産・流通の最適化が最重要論点である」とまとめておきたい。

 今回は主に流通過程に触れたので、第10回スマート・オコメ・チェーン後編では「消費まで」を含む意味と、データ駆動の生産体制について深掘っていきたい。

農林水産省:スマート・オコメ・チェーンコンソーシアムについて

農家さん紹介

 毎週気になっているなりお世話になっている農家さんを紹介するコーナー。#7では、山形県のお米農家「米利休」さんを紹介した。

 東大卒お米農家という稀有なアイデンティティを以てInstagramに投稿を始め、就農された背景や食糧危機、農業全体の問題意識等を発信し、たった10投稿でフォロワー8万4千人(収録当時)とSNSは急成長している。

 お話したいと連絡したところ快くお返事いただき、先日zoomにてお話しさせていただいた。zoomに入るなり活発な挨拶ですぐに動画通りの素敵な方だと分かり、一緒に農業の未来を創りたいという思いを強くした。

 米利休さんはその日のうちにRICE DAOに入ってくださり、8月に日本に帰国した際もご飯をご一緒することになった。

 また改めてご紹介させていただければとは思うが、何にせよこの夏の楽しみが一つ増えてウキウキである。


ここまで読んでいただきありがとうございます!
#8はコメ先物市場について配信しています!
次回もお楽しみに!

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