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「今日も我が家は」(ノスタルジック・エンパイア)no4

その頃の私は街に出て生徒指導をする先生を警戒していたが出会う事はありませんでした。

一度、仕事場での彼がどうしても観たいとワンステージだけ見せてもらった事がありました。

とても好奇心旺盛だったのです。

それは平日の特別なステージのない日が選ばれたのです。


居酒屋の厨房を抜けて大将にご挨拶。業務用のエレベーターへ、裏階段からエンパイアへ何処か湿気を含んでいて何時もの感じじゃ無い空気を漂わせていて何やら床がキラキラしているのでした。

そして、クリームのようなバニラの独特な匂いがして「何?この匂い?」と彼に聞くと・・・

「ああ!昨日は金粉ショーだったんだよ。」と言った。

「金粉ショーって?」と私が聞くと

「肌に直接金粉を付けて踊るのさ、酸欠になるから命がけなんだよ。」

「裸で?」

「そうさ、大変なんだよ。」と当たり前のように言う彼なのでした。

肌の何割かが、覆われると息苦しくなるらしく、一度、救急搬送されるのを見たことがあると言ったのです。

細い階段を抜け、エンパイアの最上階(実際は6階)へ、すると、おそらく照明機材と思われる場所に何時もエンパイアの周りを早足で動き回るYさんが「やぁ!来たね!」と言った。

彼は職人気質で余計な事は言わないのでした。

そして何時もいたと思ってもすぐいなくなってしまうのです。

ご挨拶して私は下を覗きこむと1階フロアまで楕円形に切り取られた吹き抜けの様な空間になっているのでした。

1階はだいたいステージが見やすいようにフロア前方中央に金のフリンジがあしらわれたビロードの赤いカーテンで覆われてたステージとその前に半円形にダンスをするスペースが空いており、その後ろに囲む様にボックス席が並べてあるのでした。

2階にはステージを中心に切り取られた楕円形でボックス席がういている様な感じで置かれていて飛び出した宇宙船のようにボックス席がみえたのです。

2階後方の両側に照明器具がそれを操る為のスペースにYさんが何かスイッチを操作しているのでした。

ミラーボールが出たり入ったりしていてそれより大きなミラーボールがステージの右側中心よりに出て来て定位置を探して上がったり下がったりしているのでした。

薄暗い店内がそのミラーボールにスポットライトが当たるとフロア全体が光の紙吹雪の様になり、私は思わず「すご〜い!」と声を上げた。

Yさんはどうやら音響や照明を担当している様なのでした。
ステージの幕引きやカーテンの上げ下げも全てそれらがYさんのお仕事なのだと理解したのです。

彼は、Yさんと照明の打ち合わせをすると「じゃあ、Yさん、お邪魔でしょうがよろしくお願いします。」と言うと行ってしまうのでした。

するとYさんは手を休めずに低い声で「了解!」と言うのでした。

私はすかさず「お邪魔虫!」と声が漏れてしまったのです。

Yさんは、くわえ煙草でチラッと見るとニヤつきそのまま仕事を続けた。

すると側の小さめなドアが開いてボーイの子が彼が頼んだであろう、オレンジジュースを運んで来てくれ、紙のコースターをそっと置いた時、「ありがとうございます。」と言うと「よっ!」と言われた気がして彼を見ると、何時も彼のライブの常連の1つか2つぐらい歳上のNくんがキッチリ蝶ネクタイのボーイの格好で立っているのでした。

「えっ?何で?」と彼を見上げてニヤつく彼の前歯が無い事をすかさず見つけて「どうしたの、前歯!」と言うとN君はハッとして口を覆ったのです。

するとYさんが親指を立て、「これの、」次に小指を立てて「これに手を出して怒られちまったんだとさ!」と言った。

「やめてよ!Yさん、転んだだけだよ。」と・・・N君

「今日はここまでお客さん来ないと思うからゆっくりして行ってね。」と言いコースターの上にそっとオレンジジュースを置いたのでした。

私は繰り返して「これの、これに手を出して?・・・」パッと口を押さえてYさんを見るとニヤついている。

「大変だねー。」と言うと珍しくYさんが声を出して笑ったのです。

「アハハ!」私も一緒に笑ってしまった。


「さぁ、そろそろ始まるぞ!」とYさん。

店内が明るくなったり、暗くなったりしているのでした。

そしてB.G.Mが流されてスタンバイOK!

下を覗きこむとお客様を迎える為の色取りどりの綺麗なドレス姿のお姉様達がずらりと並んでいるのが見えたのです。

そしてドアがオープンされるとボーイとマネージャーが席にお客様を案内しているのが見えて、先程のN君も率先して仕事をしているのでした。

チャラ男だと思っていたN君が凄く大人に感じたのでした。

ちょっと嫉妬の様な感情が湧いてきて、何故か置いてけぼりのような複雑な寂しい気持ちになるのでした。

お客様をだいたいボックス席に案内が終了する頃、ダンディーなマネージャーが聞いた事のある独特な口調でメモをチェックしながら「あけみさん、あけみさん3番テーブル御指名です。」すると、オレンジ色のロングドレスをフワッと正に蝶が舞うようにボックス席に向かうのです。

次々とお姉さん達が呼ばれて席に着くとYさんが忙しそうにスイッチを入れる作業をして既に小さめのミラーボールはくるくる回っているのでした。

するとステージが少しゴソゴソと動いてバンドマンがスタンバイしていると思われた。

そして大きめなミラーボールが定位置に収まり、徐々にホールが暗くなった。

             つづく

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