勇気りんりん

今までの人生の中で出会ったあんな人こんな人。私が体験したことや人から聞いたあんな事こんな事等々をモチーフにフィクションの形で表現していきます。

勇気りんりん

今までの人生の中で出会ったあんな人こんな人。私が体験したことや人から聞いたあんな事こんな事等々をモチーフにフィクションの形で表現していきます。

最近の記事

断捨離されちゃいました

 いつもニコニコ笑顔を絶やさない幼なじみの美和子さん。でも今日は何だかいつもと違う。ちょっと浮かない様子。さては体調でも悪いのかな?それとも悩み事でもあるのかな?  「何か変わった事でもあったの?」とたずねるとやはり聞いてほしかったのだろう。待ってましたとばかりに話を始める。  「じつは先日、母の三回忌に橋本のおばさんが来てくれたんだけど・・・。」 「橋本のおばさん」は近所の遊び友達だった弓子ちゃんのお母さんだ。それだけではなくて美和子さんのお母さんと橋本のおばさんは従妹同士

    • ユリシーズ

      「ユリ!おいで!」と呼ぶと一瞬逃げようとしたがゆっくりと振り返りこちらをうかがうように見てから歩いてきた。抱き上げると心なしかひと回り大きくなったような気がする。『いい生活されてもらってたんだな』と思った。腕の中で甘えるでもなく、かといってあさっての方を向いて無関心というふうでもなく、久しぶりに会った飼い主を不思議なものでも見るようにみつめている。この子も頻繁に「飼い主」が変わって混乱しているのかもしれない。まだ成長しきっていないキジトラの保護猫を飼い始めた親友を襲った突然の

      • 伊勢音頭

         ふいに三味線と太鼓の音が聞こえてきた。それに合わせて日本髪の芸者が踊るにぎやかなお座敷が闇の中に浮かんでいる。酒肴の膳を前に客たちはじっと芸者衆の踊りに見入っている。地方衆は音曲をにぎやかに奏でている。『伊勢はなぁー津でもつ、津は伊勢でもつ』と歌っている。伊勢音頭だ。ふいに座って三味線を弾きながら歌う地方芸者の顔に目が留まる。由美子だ。察するに由美子は売れないミュージシャン稼業に見切りをつけて芸者に転身したらしい。洋楽で育ってきた由美子に抵抗はなかったのだろうか?生きるため

        • 空を飛ぶ夢

           夢の中で龍二は背中に小さくなった親父を括りつけて空を飛んでいた。空を飛ぶというか実際には自分たちが向かっている島に通じる海に浮かぶようにつくられた橋の上数メートルの空中を飛んでいたのだ。時おり路面すれすれまで高度が下がる。もう少し上に上昇しなければと思うのだが操縦権は親父が握っているようで龍二には飛行をコントロールすることができない。すぐそこに対岸の濃い緑の葉を付けた樹々が密生している島が見えてきた。あと少しで島までたどり着くというところで橋に激突しそうになって目が覚めた。

          優しい嘘をお願い その4

           しかし英美は「危ない」選択をしてしまったようだ。数か月経ち、英美と夫は完全に別居して、離婚に向けて手続きを始めた。ところがそのころ何とまた英美がジュンコと仲良くしているという。以前のようにいっしょにショッピングに行き、いっしょにお茶し、いっしょにTVを観て、いっしょに食事して、おしゃべりに花を咲かせているという。『えっ、なぜ?あんなことされてどうしてまた付き合えるの?』普通なら顔も見たくないというのが当たり前だ。ジュンコは英美の車を傷つけただけじゃなく夫も盗ろうとしていたん

          優しい嘘をお願い その4

          優しい嘘をお願い その3

           ジュンコを第一とすれば英美の第二の親友ともいえる、友子さんという人がいた。英美の家出事件の後、その友子さんの身辺に「なにか起こったのでは」と英美が気にして友人知人に聞きまわっているという。なぜかというと「急に連絡が取れなくなった」らしい。彼女に電話してもつながらないし、家に電話しても誰も出ない。偶然友子にショッピングモールで出くわした私の友人がその件について聞いてみると彼女はこう打ち明けた。  「私もう疲れたの・・・。毎晩のように夜中の1時2時に電話してきてそれから1時間た

          優しい嘘をお願い その3

          優しい嘘をお願い その2

           思いを巡らせていると、英美がゆっくり顔を上げて真っ直ぐ私の目の奥を見つめてきた。心の奥底まで見通したいという眼差しだ。 「私、貴女に聞きたいんだけど。私の夫とジュンコは寝てると思う?」  何をいまさら。それを前提としなければジュンコの行動は説明がつかない。 「私はそうだと思う。だって日頃仲良くしている貴女の車を傷をつけるなんて普通はできない事でしょ?貴女のご主人にジュンコは逆らえない関係だからそんなことしたんじゃないの?」  実際それ以外、ジュンコが英美の夫に命令されるまま

          優しい嘘をお願い その2

          優しい嘘をお願い その1

           私は言葉を失った。なぜ?どうして?私は尋ねられるまま自分の思うところを彼女に話しただけだったのに。それなのになぜ恨まれなければならないのか。むしろ彼女のためになることで感謝されて然るべきことですらあったといえるのに。 2か月前の雨の夜、傘も持たずに突然私の家に飛び込んできた彼女。激しい夫婦喧嘩の末、行く当てもなく飛び出してきたのだ。  英美は夫とうまくいってなかった。愛情がたっぷりあった時にはよかったが年月がたって冷めてくると彼女の気性の激しさと日々くり返される小言やら様々

          優しい嘘をお願い その1