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12/29 『上流階級 富久丸百貨店外商部』を読んだ

今はもう付き合い、というか部署そのものが無くなってしまったが、一時期仕事で外商の人とやりとりすることがよくあった。つっても本作に出てくるような超高級品を取り扱っていたわけではないので、同じようなものではないし、親近感が湧くとかでもないが。それでも多少は……退勤時間の直前にやって来てこの商品を急ぎで外商購入させてくれと持って来たりした時とか、あの人もお客様に急に言われて急いでやってたんだろうな……と想像できる。文句は言わなかったけどあんまりいい顔もしなかったな、悪かったかしら、と今更思う。
百貨店の仕事、その外商部の仕事、ついでに前職のケーキショップのお仕事も見れて、お仕事小説としてはかなりお得な内容となっている。百貨店の女性従業員のことをマネキンと呼んでて、えっ悪口?と最初思ったけどそうではなく立派なプロモーションなのだと知れたり。
形態は違えど同じ接客業に就くものとして、身につまされたり参考にしたい点なども多々あったが、ただ静緒の恋愛まわりはちょっとよくわかんなかったかな。尊敬と愛情がどうというのは。長続きするかしないかが分かれ目なのかよとか。むしろ尊敬の方が長続きするんじゃないのとか。確かに葉鳥さんへ向ける眼差しと、同じくらい恩がある筈の紅蔵へのそれとでは敬意は変わらずとも明らかに違うというのが、エピローグで駄目押しのように描かれてはいるが。愛情と勘違いした尊敬の気持ちで一緒になると、尊敬できるところばかりじゃないんだと知れることを愛が冷めることと勘違いして別れるってことかな。それで尊敬を尊敬のままお互いに愛よりも上位に据え合った関係が葉鳥さんと清家様だったってことか。ふんーむ。
一方、愛情である筈なければ尊敬でもない桝家との関係は、出会い頭は見るからに最悪で、何さアイツとそれこそ古典ラブコメのように最低印象から始まったが、なんか気づけば悪友みたいな関係にあるのは、なんなんだ、恋敵同士の友情みたいなやつなのか。お互いいい大人で、性愛に煩わされず、焦がれる思いが共通していれば、同居からのデタントもまあやってやれんことはないのか。
上流階級という世界、そこに住まう人々というのは、しかし階級という区分で括るのは可能なのかと思うほど多様だ。連想したのは「オタク」で、なんとなく同じ括りにされてるけどその内実や経緯などはつぶさに細分化されてるあたりなんか近いんじゃないか。同好の者達で集まったら集まったで知識の盛り付け合戦や他とは違う一品を求めたがるところなんかも。知識見識にプライドを持ちたがるところはいにしえのオタク観だが、見初めたものには金を惜しまないあたりは「推し」活動に邁進する近年のオタク観にも通ずる。上流階級とは、古今のオタクをハイブリッドして厄介さと資金力をx倍した存在であると言えるのか……そして、そうしたジャンル問わない「オタク」全般に対応できるのが優れた外商員、と考えると、その労苦たるや。面白かった。
そして最後にどうでもいいことだけど、オビにはデヴィ夫人がコメントを書いているんだけど、夫人は本作をお読みになったんだろうか……一部を除いてほとんどの外商顧客を、取扱注意の珍獣のように描いている本作を。当然のように一部の方としてご照覧なさっているのかもしれないな。

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